「らっこ」
「こねこ」
「あ、ずる。こーこー……こばんざめ」
「めだまやき」
「きつね」
「ねっこ」
「っ! もぉー……こ、こ、こーー……」
夕焼け空の下、俺達は商店街を歩いていた。俺の家の近くにある大きな商店街だ。互いの手元にはスーパーで買った野菜や肉や牛乳などが入ったエコバックがある。買い物帰りに寄った惣菜屋のコロッケが、懐かしい香りを漂わせながら袋の中で存在を主張していた。
後ろから夕焼けに照らされた大きな影が伸びて、俺たち二人の少し先を歩いている。
「降参。黒乃さん、しりとり強いですね」
「そうか? 」
「こ、だけで何個バリエーション持ってんですか」
俺より少しだけ背の高い黒乃さんの影を見つめた後、肩を竦めて白旗を上げると、隣で恋人がふふと笑った。その笑顔に、つられて俺も笑う。
帰り道、しりとりをしようと言い出したのはどちらだったか。きっかけは思い出せないけれど、それで良い。こんなささやかで他愛のない日常が、日々が、俺は愛おしくて仕方ない。
夕焼けが、鮮やかなオレンジ色を浮かべて俺たちを照らす。伸びた二人分の影はぴったりとくっついて、帰路へと向かっていく。
帰るべき場所に、一緒に帰れる人がいる。
俺はそれが嬉しくて、涙が出そうになるほど幸せなのだ。
カラスが、遠くで鳴いている。エコバックが揺れて、がさりと音を立てる。どこかの家からカレーの香りがする。大好きな人の足音が、自分と同じ歩幅で、聞こえてくる。
尊いというのは、きっと、今みたいな日のことだ。幸せな気持ちに包まれながら、俺は隣を歩いている大切な人に向かって「家に着くまで、もう一回しりとりしませんか」と問いかけてみた。
俺の声に、黒乃さんは優しく瞳を細めて「良いよ。じゃあ───」と、綺麗な唇を開いてくれた。