最初に言われたのは、声を我慢するなだった。
あと、唇を噛むな。そして、俺の目をちゃんと見てろ、と。
それだけ言われて、あとは何も言われなかった。だって、話していた茜の唇はその後すぐ俺の唇を塞いだからだ。
「っ……」
手のひらが、肌を滑る。手を繋ぐ時とも、マイクを握る時とも違う熱さを宿す茜の手が、俺の胸を撫でて、腹に降りていく。臍の辺りを撫でられて、くふっての声が出た。くすぐったい。
「へぇ、ここ弱い?」
「っ、弱いってか、触られたことないっしょ。臍」
「まーな」
「、っ……わ、」
肩を揺らして笑う俺を見て、茜も笑う。暫く臍の周りを撫でられて、俺が身体をくねらせると茜の長い指がひとつ、俺のジーンズに触れた。
カチャカチャと、ベルトを外される音が耳に届く。脚から抜かれて、ジーンズは床に落とされた。下着姿になった俺が思わず口を噤むと、「こら」と、声が降ってくる。
「約束」
「……わ、っ、かってますー……」
続けられた一言で、声を我慢するな、と約束した事だと察しが着いた。恥ずかしさを抱えつつ、唇を開く。その様子を見つめていた茜が、身体を屈めて、俺に触れた。
身体が、頭が、顔が、心臓が、熱くて、くるしくて、痛くて、嬉しくて、いっぱいいっぱいだった。
与えられる欲の熱さに、愛の深さに押しつぶされそうで、茜から顔を背けて自分の腕で顔を覆う。
こんな俺、見られたくなかった。だって、今の俺、人生で一番に入るくらい情けない顔してる。
「、っ……こら、」
また、声が降ってくる。さっきよりも掠れて、濡れてる、茜の声。声と一緒に、腕を掴まれた。
「……っ、っ!」
無理やり顔を向けさせられて、目が合った。茜の綺麗な金色の瞳の中に、俺がいる。
「、ほんと……可愛いな、真白」
「っ……かわ、いく……っなぃ……っん、」
目が会った瞬間、うっとりした顔で微笑んだ茜が、愛を吐き出す。注がれる愛が大きすぎて、受け止めるのが恥ずかしくて口を閉じるも、キスで誤魔化された。
開かれた隙間から舌が入ってきて、俺の逃げ道を塞ぐ。
「……、好きだ。愛してる。だから……隠すな。全部見せろ。んで、全部教えてくれ。俺に、真白のこと、全部」
「っ……、っ」
キスの最中伝えられた直球すぎる言葉は、俺の受け止められるキャパをゆうに越えていた。
何も言い返せない俺を見下ろす茜が「約束したからな。目、逸らすなよ」と続ける。俺は唇を震わせながらーーーーこの、いじめっ子、と胸の中で精一杯の悪態をついた。(終)