「っ……、」
ちゅ、と音を立てて唇が重ねられた。
茜のするキスは、仕掛ける時は強引なくせに触れると砂糖菓子のように甘くて優しい。だから、抵抗が上手くできない。強引なキスなら舌でも噛んで離れてやるのに、慈しむ様な、唇だけで愛をこれでもかと伝えてくるキスをされたら、抵抗なんて出来る訳がない。
頬に添えられてる茜の掌が動いて、髪をかけている耳朶を指先で揉まれる。これはキスをしてる時の────茜の癖だ。
「っん……」
耳朶に気を取られていたら、敏感な軟膜を舌で突かれた。意識していなかった刺激にひくんと肩を跳ねさせると、唇を触れ合わせたまま茜が笑う。くつくつと楽し気に笑う声が、咥内に響いた。それは直接脳に伝わって、俺の頭の芯を震わせた。
「……っ、」
────こんな簡単な事で、俺の理性も、思考も、あっけなく完敗してしまった。
だって俺は、この声にめっぽう弱い。
「、っ……あかね……」
陥落したら、キスを受け入れるのはたやすい事だった。意地を張るのをやめ、身体の力を抜くと口付けが深くなった。抱きしめ合って、触れ合って、求めあう。混ざり合った唾液を飲み込みながらキスの合間に茜の名前を呼んだ。欲に濡れた自分の声は、なんとも情けない声だった。なのに、
「……どうした、真白」
返事をする茜の声は、やっぱり砂糖菓子みたいに甘くて、泣きたくなるほど優しかった。目を細めて見つめてくる茜の表情は、俺を呼ぶ声は、触れる指は、重なる唇は、────全部、俺が欲しくてたまらないものだらけだ。
「……、っ……もっと……ちょうだい……」
「……りょーかい」
その欲しくてたまらないものを、全部差し出して俺を愛してくれる茜が愛しくて仕方がない。きゅっと心のおくが切なくなる。
俺の言葉に頷いた茜が顔を近づけてきて、再び唇が重ねられる。キスが深くなると同時に、身体の深い場所が痛くなった。
ああ、この切なさが、この痛みが、愛だと言うなら俺は何度でも味わいたい。そう思いながら、俺は愛しい人の口付けに溺れていくのだ。(終)