パンッ! と後ろにある電子レンジの中から破裂音がした。
それは俺の心臓を、きゅってさせる音だった。
むかし、聞いた音に似てた。暗い部屋で何度も音がしてた。なにか降ってきて、それが床に当たって、俺にも当たって、俺に怒る人がいた。分からない。あれは怒ってたのか、それとも話しかけてくれてただけなのか。もう、全然覚えてない──思い出せないのに、音だけは、鮮明に耳に残ってる。
身体が、動かなかった。早くレンジ開けないと、茜ちゃんが怒っちゃう。どうしよう。頭の中が、ぐわんぐわんと揺れた。目の前がぐるぐる回る。
あれ。俺、なにしてたんだっけ、俺。
「おいっ、手貸せ」
「っ、」
頭の中が、真っ白になった瞬間腕を掴まれた。引っ張られて、シンクの方に連れていかれて、右手に冷水がかけられる。
「火傷……は、してなさそうだな。怪我は? 指切ったりしてねぇか?」
「、」
何を言われてるのか、全然分からなかった。俺の手をじっと見てほっと息を吐いた茜ちゃんは──────ご主人様は、今度は俺の顔をじっと見てから、大きな目を見開いて、そのあと悔しそうに目を細めた。
そして、気づいたら俺は茜ちゃんに抱きしめられてた。
「……気づかなくて、悪かった」
そう低い声でぽつりと言って、俺の頭を優しくぽんぽんと撫でてくる。俺は、それになんて答えていいのか、やっぱり全然分からなかった。でも抱きしめてくれるのが嬉しくて、全身を震わせながら、なんとか手を動かして、茜ちゃんの背中に縋り付くようにして抱きついた。(終)