「茜さ、ラブソングに飽きたら何歌う?」
日暮茜はそう問いかけてきた冬木真白の顔を見た。前々から突拍子もない事を言う男だと思ってはいたが、今日の発言は今までで過去一だと思った。
「何だいきなり」
「んー、だって、」
訝しげに目を細め真白を見ると、男は指先に挟んだ煙草をふかしながら、カラリと笑った。
「お前のラブソング、聴いてっと照れるから。だからさっさと飽きて欲しいなぁって思っただけ」
煙を吐き出し、再び煙草を咥えた真白はくぐもった声で言って、肩肘を窓の手すりに乗せ頬杖をついた。その言葉にーーーーなるほど、と納得の言った茜がふはっと吹き出して笑う。
頬杖をつく真白の隣に近づいて並び口を開く。
「お前、相当浮かれてんだな」
「......うっさいよ」
「そりゃ、自分宛のラブソングが全世界で発信されてたら照れるよな」
「......」
図星を刺された顔つきで、真白が茜をじろりと横目で睨む。その視線にまた笑って、
「残念ながら、お前がいる限りラブソングに飽きる事はねーわ。大人しく諦めな」
「......」
と吐き出しながら、真白の口元にある煙草を奪った。
自分の口に挟んで吸い込むと、独特の味が肺に染み込んでくる。
茜の言葉と行動を身動きひとつせず横目で見ていた真白は、煙草を吹かす恋人の姿を見つめてから「......ほんっと、王様はずっるい」と悔しそうに呟いた。(終)