「…………おい、」
「ん〜?」
跨ってる男に声をかけた。俺の腰を挟むようにして開かれた男の両足に手を伸ばすと、だぁめ、と滑らかな笑い声とともにやんわりと手を退けられる。
「俺に触んのは後。まずは、俺から触らせて?」
見下ろしてくるーーーー人間離れした美しさと妖艶さを兼ね備えたソイツは、湿り気を帯びた声でそう言って、顔を近づけてきた。男は、頭のてっぺんから脚の先まで、ちょっと引いてしまうほど白かった。
緩やかなウェーブがかかった白い髪は、襟足が項にかかっている。くるりと毛先が丸まり、男の肌の上にかかる。右耳にかけられた髪が、男が動く度はらりと落ちて顔のラインに影を落とす。前髪が、男の左瞼を覆って、その奥にある赤い瞳が男の妖艶さを更に増させていた。
印象的な瞳は、中心からじんわりと発光して全体的に光を放ち、俺を見下ろしてくる。
この男が人間ではないというのは、部屋に入ってきてすぐに分かった。そもそも、この部屋は三十五階の最上階で、窓から入るなんて不可能だ。そろそろ寝るかとカーテンを閉めようとしたタイミングで、男は「こんばんは、ご主人様。遅くなってごめんねぇ。会いに来たよ」と言いながら、夜空から降りてきた。
黒いレザーの、紐のようなものを身体に巻き付けて、背中に黒い羽を生やし、頭には黒いツノが生えていた。
「は?」
「んじゃ、しよっか。あ、安心していいよ。俺、かなり上手いから」
「ちょ、っ……」
そのまま、ふわふわと浮いている男が部屋に入って俺の身体を掴み、ベッドへと運んだ。ギシッとベッドが軋んだ音を立て、俺たちふたりの重さを受け止める。
そうして、今の状況になった。
俺の上に覆い被さる男の姿は、近くで見るととんでもなかった。身体に巻きついている(ように見える)レザーの紐は、男の身体の隠すべき場所を何一つ隠していなかった。
目の前に晒されているピンク色の胸も、ツンと尖った先も丸見えで、クロスされているレザーの紐は臍から下までーーーー男の下半身まで繋がっていた。
白い肌が、紐にくい込んで肉厚感を見せつけてくる。男の中心部を覆う場所には、心持たない程度の布があったがそれでも男が動く度にその下にある膨らみの形が分かるほど布地は薄く、覆い隠している部分も少ない。
ほぼ全裸なんじゃないか?と言えるレベルの男の姿に息を飲むと、俺の様子を見ていた男がふふっと目を細めて笑った。
「……興奮してる? 嬉しいなぁ。俺ね、ひっさしぶりなんだ。こっちでご飯食べるの」
「……飯……?」
「ずーっとリハビリ中だったから。だから、も……無理。ね、食べていい? ご主人様のコレ、ちょうだい」
うっとりと、噛み締めるようにゆっくり男が話し始める。何を言ってるのか分からず顔を凝視すると、垂れた目元をより垂れさせて、男が微笑む。
そして、コレと言いながらーーーー俺のものを、服越しに撫でた。
「っ、……、」
細く長い指が、ゆっくりと下から上に撫で上げてくる。
服越しに玉を揉まれて、そのまま全体を揉みながら手のひらが上がってくる。どこを触ったら興奮するか、気持ちいいのか、なにもかも分かっている手つきに、じんわりと腰が重たくなった。
「……っ、……すっご……服の上からも分かる……ご主人様、これデカイね。嬉しー……」
「っ、……お前……っ、んとに……」
「……はー……、ッ……マジでヤバい……。喉乾く……くるし……っ」
ブツブツと恍惚な表情でつぶやく男が、ごくりと喉を鳴らしてから俺の股間に顔を埋めた。勢いよくズボンと下着を下ろして、硬くなり始めたそこに顔を近づける。
「……やばぁ……すご……」
とんでもない場所で、とんでもない男が、とんでもない事を言っている。混乱した頭で状況を整理しようとするも、その思考はすぐにかき消された。
俺のそれを見つめる男の瞳が、先程よりも濃いピンク色に光っていた。そして、その目の中にーーーーハートマークが浮かんで、俺のそれをうっとりと視界に映している。
その光景が、情けない事に俺の心臓を撃ち抜いてしまってーーーー俺は抵抗する事も、咎める言葉も発することも、なにも出来なかった。(終)