朝の海は、潮の香りと夜明けの香りが混ざって、なんとも神々しい。神秘的で、でもどこか懐かしい香りが鼻を擽る。
「さっむ」
「ストール巻くか?」
「んー……や、大丈夫です」
助手席をおりた叶希が身体を刺すような冷たい風に縮こまると、運転席から降りた黒乃が声をかけてきた。手元には、NYで買った厚手のストール(ブランケットと言った方が正しいかもしれない)が握られている。
ううん、と悩ませてから叶希は首を振った。それを見た黒乃が「わかった」と、脇にストールを抱えたままこちらにやってくる。
「……君は、本当にわかりやすいな」
「……む、」
目の前に立つ黒乃がクスクスと笑って、手を伸ばしてきた。告げられた言葉に、バレてると思いつつ、手を取って、指を絡めた。
「ストールがあっても無くても、手は繋ぐから安心してくれでいいのに」
「……っ、……はい……」
ぎゅっと指を絡めて、繋いで、海岸に続く道を歩く。朝日が、自分たちを照らす。
浜辺に伸びた自分たちの影が、ピットりと寄り添いあっている。
瞳に移るその光景が嬉しくて、手に触れている温もりが甘くて、叶希は今度は別の意味で身体をぶるりと震わせて、「……黒乃さん、あったけ……」と呟いた。