グリム童話関連の参考資料など

見代
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公開:2025/5/16

自分の中でごちゃごちゃしてきたので一旦まとめます。せっかくなので覚えている範囲で軽く紹介も。随時こっそり更新。

グリム童話以外もそのうち追加しますが、その際はしれっとタイトルを変えて追記します。

他におすすめの日本語文献があったら教えてください。


■ 底本

◉ 『初版以前 グリム・メルヘン集』

(フローチャー美和子 訳 / 東洋書林 / 2001)

グリム童話が出版される前のいわば草稿、通称「エーレンベルク稿」をまとめたもの。

◉ 『白雪姫はなぐられて生き返った─グリム童話初版と第二版の比較─』

(間宮史子 訳 / 小澤昔ばなし研究所 / 2007)

タイトル通り初版と第2版を併記したもの。翻訳に採用した言葉や表現が統一されているので日本語でも内容の差異を比較しやすい。ただし一部の話しか掲載されていません。

◉ 『初版グリム童話集』

(吉原高志、吉原素子 訳 / 白水社 / 1997)

初版に掲載された話を網羅した訳書。『白雪姫はなぐられて生き返った』に掲載されていない話はこちらを参考にしています。

◉ 『完訳グリム童話─子どもと家庭のメルヒェン集─』

(小澤俊夫 訳 / ぎょうせい / 1995)

こちらは第2版を網羅した訳書。『白雪姫はなぐられて生き返った』の第2版に関する記述はこちらを底本にしているようです。

◉ 『決定版 完訳グリム童話集』

(野村泫 訳 / 筑摩書房 / 1999)

最終版である第7版を網羅した訳書。ちなみに全版とも様々な訳書が出ていますが私がこれらを選んだ理由は単に自分の生活環境では一番アクセスしやすかっただけです。

◉ 『リューベツァールの物語―ドイツ人の民話』

(J.K.A. ムゼーウス 著 / 鈴木満 訳 / 国書刊行会 / 2003)

グリム兄弟から1世紀遡る18世紀ドイツで刊行された、昔話改変創作。民間で語られる昔話にも影響を与えたと言われているようでグリム童話とも間接的に繋がるようです。白雪姫の継母を主人公にした「リヒルデ」などあり。

◉ 『完訳 ペロー童話集』

(新倉朗子 訳 / 岩波書店 / 1982)

17世紀末にフランスの宮廷で語られた昔話をまとめた本。グリム童話に収録された話も多いながら展開がだいぶ異なり、比較材料として引き合いに出されることが多い。基本的には貴族好みに合わせてグリムより穏和な傾向とされる。

日本語訳で全話が収録されているのは調べた限りこの岩波文庫版だけのようです。プリンセスを内親王と訳したり現代感覚だと少々戸惑いはしますが、読めないことはない。

◉ 『ペンタメローネ』

(ジャンバティスタ・バジーレ 著 / 杉山洋子、三宅忠明 訳 / 筑摩書房 / 2005)

17世紀前半ナポリ王国(現南イタリア)で書かれた、やはり昔話改変創作。主人公である王女様の運命の相手を横取りした奴隷女を懲らしめるために10人の女が昔話を1話ずつ5日かけて語ってじわじわ追い詰めていくという大枠で50話が収録。グリム童話とは通じつつもだいぶ流れが違う話が多いながら「これが原話に近い形だったのでは」と目されている模様。

■ 映像作品

◉歌劇「ヘンゼルとグレーテル」

(サー・ゲオルク・ショルティ指揮 / ユニバーサル ミュージック合同会社 / 2020)

グリム童話をベースに家庭劇向けに改変された話をさらにオペラに仕立てたもの。ドイツではクリスマス前の定番演目として親しまれているとのこと。

バレエ「眠れる森の美女」

(マリウス・プティパ 原振付 / ユーリー・グリゴローヴィチ 改訂振付・演出 / 2011)

ペロー童話を元にロシアで作られた演目。ディズニー版の主題歌「I know you」の原曲はこの演目で使われる楽曲。

◉ ディズニー

言わずと知れた世界的童話“話者”。ペローやグリムをベースに現代向けに改変しまくった話を定着させた。

今のところ観たやつはこの辺り。記述のないものはすべてDMM TVで視聴。

  • 白雪姫(DMM TV / 1937年アニメ版)

  • 白雪姫(映画館視聴 / 2025年実写版)

  • 眠れる森の美女(DMM TV / 1959)

  • マレフィセント(Disney+ / 2014)

  • マレフィセント2(Disney+ / 2019)


■ 参考資料

ちゃんと記録していなかったから漏れがありそう。

◉ ウラジーミル・プロップ

昔話の第一人者。ロシアの魔法昔話というジャンルはすべて共通するパターンで話が構成されているとして分析し、彼の理論は世界中の昔話の分析に応用され、創作理論としても活用されている。

日本語訳書は以下の通り。(全部読んだかは覚えていない)

  • 『ロシアの祭り』(大木伸一訳 / 岩崎美術社 / 1966)

  • 『民話の形態学』(大木伸一訳 / 白馬書房 / 1972)

  • 『口承文芸と現実』(斎藤君子訳 / 三弥井書店 / 1978)

  • 『魔法昔話の起源』(斎藤君子訳 / せりか書房 / 1983)

  • 『ロシア昔話』(斎藤君子訳 / せりか書房 / 1986)

  • 『昔話の形態学』(北岡誠司、福田美智代 訳 / 白馬書房 / 1987)

  • 『魔法昔話の研究 口承文芸学とは何か』(斎藤君子訳 / 講談社 / 2009)

◉ 『国際昔話話型カタログ 分類と文献目録』

(ハンス・イェルク・ウター 著 / 加藤耕義 訳 / 小澤昔ばなし研究所 / 2016)

プロップ理論を普遍的に活用できるよう改良された理論で世界中の昔話を大まかにカテゴライズしたカタログ。似たような話がどの国にあって、大まかにどんな違いがあるのかが一覧できる大変便利な本。英語もできれば論文や文献などにもアクセスできる目録つき。日本語訳されるにあたって日本の昔話に関する情報も増補された模様。

◉ 『現代に生きるグリム』

(谷口幸男 著 / 岩波書店 / 1985)

◉ 『グリム童話の悪い少女と勇敢な少年』

(ルース・ボティックハイマー 著 / 鈴木晶、田中京子、広川郁子、横山緝子 訳 / 紀伊國屋書店 / 1990)

◉『昔話の魔力』

(ブルーノ・ベッテルハイム 著 / 波多野完治、乾侑美子 訳 / 評論社 / 1978)

フロイト派の心理学者によるグリム童話分析書。ものすごく雑に言うと「すべて性欲と近親相姦願望が背景にあるんだよ!」みたいな展開……だったと思います。

◉ 『河合隼雄著作集』

(河合隼雄 著 / 岩波書店 / 1994-2004)

こちらはユング派の心理学者による著作集。心理学の話が主体ですが昔話や宗教を通して民族性の心理分析のようなものもしていて、その中でグリム童話にも触れられています。第1期が14冊、第2期が11冊。

◉ 『悪とメルヘン─私たちを成長させる〈悪〉とは?』

(マリオ・ヤコービ、イングリット・リーデル、ヴェレーナ・カースト 著 / 山中康裕 監訳 / 千野美和子、山愛美、青木真理 訳 / 新曜社 / 2002)

こちらもユング派の心理学者によるメルヘン分析書。メルヘンに登場する悪や魔女が心理学的にどう解釈できるかというのを説明した本で、日本ではあまり馴染みがないだろうメルヘンも紹介されていてとても面白い、のですが、ユング心理学の基礎知識を備えていることを前提とする記述も散見して、そのあたりを懇切丁寧に説明してくれたはずの『河合隼雄著作集』を読んでからでもちょっと内容を理解しづらいことが多かったです。

◉ 『おとぎ話と魔女─隠された意味』

(シェルドン・キャッシュダン 著 / 田口孝夫 訳 / 法政大学出版局 / 2003)

学派は不明ながらこちらも心理学からグリム童話を分析した本。主張が二転三転して正直意味は取りづらい。

◉ 『シンデレラ―9世紀の中国から現代のディズニーまで』

(アラン・ダンダス 編 / 池上嘉彦、山崎和恕、三宮郁子 訳 / 紀伊國屋書店 / 1991)

◉ 『素顔の白雪姫─グリム童話の成り立ちをさぐる』

(小澤俊夫 編 / 光村図書出版 / 1985)

第2版グリム童話を日本語訳した昔話の研究者・小澤俊夫が編纂した白雪姫関連の論文集。

◉ 『「白雪姫」とフェティシュ信仰』

(石塚正英 著 / 理想社 / 1995)

女王が白雪姫の肺と肝臓を食べたがるのはグリム兄弟(特に兄ヤーコブ)が志向した自然崇拝時代の信仰の残滓とする著述から、「白雪姫」にとどまらずグリム童話全体が社会の要請を受けてどのように改変・利用されていったかを19世紀ドイツから20世紀アメリカ、ひいては戦後日本にまで言及する本。

◉ 『誰が「白雪姫」を誘惑したか』

(金成陽一 著 / 大和書房 / 1991)

◉ 『誰が「ねむり姫」を救ったか』

(金成陽一 著 / 大和書房 / 1993)

◉ 『「赤ずきん」はなぜ愛くるしいか』

(金成陽一 著 / 早川書房 / 1996)

上記3冊はおよそ同シリーズ書。各話のパターンや変遷が参考になるのはもちろんのこと、個人的な印象ではリアリストの日本男性がこのおとぎ話を読むとこういう解釈になるんだな……(※偏見)という観点で面白い本でした。

◉ 『本当にあった? グリム童話「お菓子の家」発掘─メルヒェン考古学「ヘンゼルとグレーテルの真相」』

(ハンス・トラクスラー 著 / 矢羽々崇、たかおまゆみ 訳 / 現代書館 / 2012)

多くを語ると台無しになるので紹介しづらい。グリム童話の記述や挿絵から史実における「ヘンゼルとグレーテル」の全容を探るという感じの本。

■ 論文、サイトなど

西口拓子「「ヘンゼルとグレーテル」の類話について」

表題の通りの内容。日本で出版されていない類話も紹介されているのでありがたい。

岡部由紀子「グリム童話を読み直す ヘンゼルとグレーテル」

「お菓子の家」のお菓子はドイツで祭日に食べられるごちそうで白パンも含むとか、パン焼き窯は胎内の象徴とか、魔女は穀物霊の後裔ではとか、大変示唆に富んで勉強になった講座資料。

鈴木万里「「眠り姫」の変遷」

「眠り姫」話群で特に有名な話をピックアップして内容を比較しながら各次代の倫理観の変遷を検討している論文。研究概史もコンパクトに紹介していてくれています。

岡本英明「グリムのメルヘン「いばら姫」(KHM 50)解釈について:その文献学的, 教育学的考察

「いばら姫」分析史を詳細にまとめてくれている論文。グリム兄弟が原典と目した北欧伝説との比較も詳しくて勉強になりました。

円環伝承「民話想」

有名な民話の膨大な類話や詳細な分析・解釈が掲載されていてすごく助かるサイト。

@kmgtr
心に移りゆくよしなし事をそこはかとなく書きつくればあやしうこそものぐるほしけれ