2024年1月23日(火)に観てきました。Twitterでは確かに考察だったり、キャラに沸くオタクだったりを観ていたし、そのオタクたちに拒否反応を示す友人たちを見てきたからか、正直どういうものか読めず。ただ、ひととおり見た後の感想としては、「思ったより良かった」というものだった。
一応、水木しげるのゲゲゲの鬼太郎「鬼太郎の誕生」は読んだけれど、話が本当にうまいことまとまっていたように思う。というのも、それまでに見た映画がファンタスティック・ビーストシリーズで、2と3がいかんせんJ・K・ローリングが要素を詰め込みすぎていて消化不良感を覚えていたものだから、謎に思った部分も解消されつつ、2時間弱で描けるだけ描いた無駄の少ない良質なストーリーだった。
アニメーションとしても、平成のアニメのようでなじみやすかった。ドラえもんやONE PIECEを見ればわかるのだけど、映画になるとちょっと線の感じが変わる。特にワンピなんて最近海外風というかエフェクトをかけまくってよりリアリティかつ効果的な作画を繰り出してくる。最近そういう美しいものばかり評価されるから逆張り心が働いて寂しかったのだけれど、その一昔前のような味わいがあったのが第一印象としての安心感だった
構成の美しさについて考える
因習村ものをまともに見たことがなかったから新しかった、陰陽師だの妖怪だのの話を出されると民族学的性癖をついてきてテンションが上がるから、水木の顔がどちゃくそタイプだったから……。個人的に映画を楽しめた理由もたくさんあるけれど、本当に本当にストーリー骨組みと物語をわからせるための構成の引き算がちゃんとされているな!という印象。
だって私だったら水木の血統にひとつくらい村との繋がり設定入れてるし、時麿に対して公家の格好をする一族の秘密~みたいな設定とか、親からの教育が~みたいな設定とか入れてる。そういう無駄なものが一つもなく、ただ鬼太郎の誕生めがけて時代観を全うしていた部分(水木のおかげ)とゲゲ郎の愛が記憶に残るような作りだったのが良い。(時貞のマッドサイエンティストぶりがゲゲ郎の愛情あふれる性格との対比になっていたのも、ゲゲ郎の家族愛を際立たせていたように思う。)
現代と過去の往復が綺麗
現代と過去を繋げて回想形式で巡っていく。そういうものだと、大体見ている側は混乱するし、見ている間に脳みそが疲れて「もういいや」と物語を追うのを放棄してしまうことがある。でも本作は「登場人物があからさまに違う(鬼太郎がいるのが現代・水木やゲゲ郎がいるのが過去)」「村の荒廃具合が違う」のふたつの状況で頭を切り替えやすかった。
また、昔の名残が回想中にキーアイテムとして出てくることは、「えっ?何があったの本当に」という過去進行形的に行われている破滅への期待を高めるのだろう。私は甲冑が出てくるたびに震え上がったし、怖すぎやろなんでこれだけこんな赤赤しくてキーアイテムとして残ってるんだ絶対勝手に動き出して誰か斬り始めるんだと思っていたが、結局作中ではそうでもなかった。でも確かに作中ではそうでもなかったけど、観客が時系列を理解する・期待感を操作するの2点で上手く働いた装置だったと思う。(ちょい負け惜しみ)
無駄な回想がほとんどない
水木には戦争に赴いた過去とそれを踏まえて成り上がりたいという欲望、ゲゲ郎には幽霊族として虐げられた過去と奥さんとの出会いやなれそめという、それなりに掘ればそこそこの尺を取るであろう背景がある。作中でもちろんどちらも描かれるのだけれど、比較的最低限の描写だったうえにこちらに想像させるものが多かった。上官が逃げようとするシーンや猫ちゃんをしつけている夫婦団らんのシーンなど、語りなしに記憶の断片を見せられているような。その分こちらは余白を想像することに忙しいから、ダレることがなく観きれたんだと思う。
しかも、その過去をふたりは酒を飲みながら酒場で語り合う。彼らの主観で語られるもので、しかも他人に話すものだから全てではないうえにエピソードでもない。共感させようとしない「そこにただ存在している話」だった。うーん、自分が3人目であるかのような感覚というのだろうか。とにかく、その他人感というか、キャラクターの過去をひとつとして尊重している感じの塩梅がこちらにもちょうどよく、なんなら新たに生まれる謎もなく、終わっている話だったので癒しポイントですらあった。
謎を思い出すころに回収してくる狡猾さ
「結局犯人は三女なんか?」と思ったところで殺されたり、水木が沙代に首を絞められているときに「ウワー誰が助けるの?」と思ったら長田に刺されたり、「あれ、そういえば時ちゃんは?」と思った頃に最後に時貞翁として出てきたり、こちらの疑問への解答をすぐに出してくる気持ちよさがありました。ずるい。
ただ、その謎も、たぶん考えさせるポイント作りが上手だったように思う。
誰が一族を殺しているのか
禁忌の島にいる妖怪はなんなのか
ゲゲ郎の嫁はどこに行ったのか
「M」はどうやって作られているのか
多分、この4つの大きな謎が並列に出てきていて、しかもベン図のように展開が折り重なっていた。誰かが死んだり、ゲゲ郎が裏鬼道の人たちに追い詰められていったり、次男の孝三とお話ししたりして少しずつ事件を積み重ねて謎に迫っていくのが、何とも丁寧。観ていて置いていかれないので、物語の飛躍もなく、すんなり受け入れて進むことができた。
これはファンタジーあるあるかもしれないけれど(まずゲ謎がファンタジーなのかわからん)、ただ設定とか繋がりとか因果関係を散りばめて無理やり絡めて綺麗には回収できないがなんとなく関連があったね!とこじつけて終わる、なんてことがある。ファンタビで言えば、ニュートとダンブルドア(習っていたよしみ)とか。いや能力を買っていたのはわかるんだけど、わかるんだけどそこまで買ってるならなぜそう思ったのか教えてくれ!というついていけなさのような、わからなくはないけど腑に落ちないようなつながりで話が進んでいくことがあるのだ。
ただ、今回においては無理やりに思えるようなこじつけはほとんどなく、何かしら行動の動機があって展開がつながっていったように思う。例えば、水木とゲゲ郎が村にいた理由とか。2人が同じタイミングにその村に現れたというところだけが偶然。だからすんなり受け入れられたし、水木が工場でゲゲ郎を助けに行ったのも、まあ盃をかわしたら兄弟って言ってる作品もあるしなあと少年漫画をそこそこ通っていれば違和感はなかった。正直沙代と東京に逃げる絆よりは酒を交わしあったゲゲ郎の方が絆はあるだろ。(もしかしたらそういう対比を作ることで違和感を払拭していたりします?)
全然関係ないけど、ハガレン大好きだった身からすると「M」は賢者の石のように誰かの命を削って作っているんじゃないかとちょっと読めたりもしていた。でも、謎が何重にも綺麗に重なっていたせいで、その解答がどこで明かされるのかというところで楽しむことができたのかもしれない。日本固有因習村系の話なのに、賢者の石という西洋系のオマージュを感じられたのも面白かった。
いいものはちゃんと人に届く
想定外のヒットになったのは、多分シンプルにリピーターが多いからじゃないかな。ぽつぽつと出てきた要素がここと繋がっていたのか、というのは一気に拾いきるのがおそらく難しい(ダヴィンチコードとか好きな人は慣れてそう)。話が綿密でしっかりしている分、物語への理解度を上げたい思った人たちが繰り返し見たのではないかと思う。たしかにこれは「全部分かりたい」と思わせるにふさわしい密度だった。
フックと内容がちゃんと釣り合ってるのがスゴイ。たしかnoteの中田さんがビジュアルが発表されてオタクたちが勝手に二次創作を書き始めた~とかを言っていた気がするけど、そのきっかけを超えていく内容で殴ってきたのがスゴイ。ONE PIECEや鬼滅をはじめ、キャラとか技のインパクトでゴリ押しする作品も多い中で、ストーリー勝負で人の心を掴めたのが、この作品の傑作と言われる由縁なのかなと思ったりもします。
上映後の「久々に集中して映画を観きったな」という達成感は忘れられないと思う。あんまり集中力もあるほうではないから、今まで映画を観ていてダレたら多少は頑張っていたけれど、今回は頑張らなくても観させられた感じ。すごくすがすがしくて、気分が良かった。
「いいものを作れば、ちゃんと届く」ということがわかっての満足感もあった。逆にこれに気付けなかったら悲しい思いをしていました……。こういうもしかしたら気付かれなかったかもしれない作品を見て、改めてアンテナ張ることがどういうことかわかった気がする。今まではなんか浅い感覚が自分の中であったような。
本当は昭和の描き方とか水木しげるへの敬意とか、ふんわり感じたけど知識がないから言語化できない側面がたくさんありそうです。勉強不足!2度目は気が向いたら行こうかな~と思います!
さいごに水木さんへ。「M」なんかなくても戦後の日本人は頑張れました!ありがとう!おかげで今の豊かな生活があります!!昭和顔万歳!
参考
わたしがたのしかったところ
はじめて因習村もの(?)をみた
八つ墓村とか、そういう怖いものは観たことがなかったので、千と千尋以来のトンネルを抜けた先の人々の話だった。犬神家の一族っぽいとか、そういう話も聞く。Twitterではこれは因習村ではないというものも見るんだけど、その違いがよくわからないくらいにはちゃんと理解していない。
あ、もしかして八雲立つも因習村か!!!!?というか八咫烏シリーズの玉依姫もそうだな。
とにかく、はじめて見る物語展開だったというのもあって、楽しめたのでした。
陰陽師だの妖怪だの民俗学的な好みをついてきた
別に陰陽師が出てきたわけではないし、おばけは今でも嫌いなのですが、理屈の通ったお化けは好きです。だから、幽霊族は人間の生まれるもっと前からいて~とか、井戸の怨霊で~とか、理由があるものがなんだかんだわらわらと設定で出てきたのが結構好みでした。幽霊族って血あるんかい
水木の顔
お前が好きだ~~~~~~~!!!!!血まみれ!ドギョンス!!最高!!ちょっと古そうな顔立ち大好きだ!!
ちゃんと子供たちに石投げられて「コラ~~!」って怒る昭和感も、かっこいい顔も、なんか血まみれでも死んでそうでも絶対に立ち上がる精神力も、精悍な顔立ちも、スーツの似合うそのスタイルも(スリーピースを着てみないか??????)、タバコを咥える横顔も、銃の腕前も、全部最高でした~!
さっき映画を全部観きった達成感とかの話したけど水木の顔ありきなところも、あります。「君たちはどう生きるか」の眞人の顔もそうだし、西島秀俊もそうだし、佐々木蔵之介もそうだし、ゾロもそうだし、硬派な顔の男っつーのは最高~。精悍な男にスーツはよく似合う!そういうやつは大体和服も着るもんですけど、言うまでもない。私が清少納言だったら春夏秋冬の趣を語った後に絶対に精悍な男について一章書いてる。「男は背広。和服は、更なり。」
そういえば水木しげるの自画像2回くらい出てたよね?