ゆめがたり 振り子時計

  こんばんは。今日は、どんな夢がよろしいですか。

 ノスタルジックな夢ですか。それなら、たしかこの辺りに……あれ、どこだろう。ちょっと待っていてください、すぐに持ってきますので。

 あれ?おかしいな、あの状態の夢なら全部ここに置いてたはずなんだけど……。

 すみません、待っているだけは退屈ですよね。私が一つお話ししますので、それで間を繋ぐこととします。

 私は振り子時計に懐かしさを覚えるのです。小学生のころ、よく振り子時計の響きに耳を澄ませていたからでしょうか。時を刻む無機質な音の中では、自分の鼓動もなんだか機械的に思えて、命というものは案外単純なのではないかと考えるなどしていました。

 時間を告げる低い鐘の音も好きです。重たいようでいて、すぐに空間にほどけてゆく響き。幼い人間でさえもそれに物哀しさを覚えるのですから、きっと人は産まれながらに寂しさを胸に抱えているのでしょうね。

 ……あ、ありました。けれどひどくバラバラになっていますね。夢はとっても脆くて、長らく語っていないとこうやって崩れてしまうのです。そのうえ、目覚めた時点でページがボロボロになっていたり、背から剥がれ落ちていたりすることもよくあるのですよ。

 まぁ、無事なページだけでも語っておきましょう。もしかしたら、他のページが復元されるかもしれませんから。

 私は夕陽に満ちた時間の中、学校の暗い廊下を駆けていました。誰かを探してか、焦燥感を胸に抱えて走っていました。学校の廊下なので、普通なら10秒もあれば端まで着くはずなのですが……不思議なことに、いくら経っても突き当たりには届きません。

 違う、この人じゃない……すれ違う人のかたちを見ては、目的の存在でないと判断する、ただそれの繰り返しを続けていました。視界の端に映る理科室や家庭科室は、扉の奥が闇に包まれていて入り口のすぐ近くだけがうっすらと見えます。時々当たる橙の日光は私の焦りなど知らず、暖かく私の頬を撫でていきます。

 見つからない、見つからない……探している人は、本当はもうここにはいないのではないか?締めつけるような喪失感が私を襲います。それを振り切るように私はなおも走り続けました。

 しかし、時の流れは私の感情など勘定に入れません。振り子時計は夕暮れを終わらせる時刻を低い鐘の音とともに告げました。あぁ、ここにもうあの人はいない。その事実を受け止めて、私はそっと足を止めました。

 ……結局私の探した人は誰なんでしょうか。夕刻の学校にいておかしくない存在ですから、先生でしょうか。生徒ならすでに帰っている可能性が高いでしょうから。とはいえこれは夢ですので、そういった常識から推察してもどうにもならないかもしれません。強いて言うなら、私はその人を恋しく思っていたのでしょう。胸を締めつけるほどに、居なくなるのが悲しいのなら。

 夢よりも他の話の方が長くなった気がしますが、今日ばかりはおゆるしください。もし眠れなければ他の語り手を訪ねてみてください。

それでは、おやすみなさいませ。

@kohakutou_neko
ねこすいたい