ゆめがたり ベランダライブ

 こんばんは、よくいらっしゃいました。本日は、どのような夢をご所望ですか?

 愉快な夢、ですね。うーん……あぁ、こんなのはどうでしょう。以前、ベランダでライブをした話。

 お夕飯の後でしょうか、私は忙しなく家の廊下を行き来していました。クローゼットから大きなフリルのついた衣装を出して、着たと思えば髪留めを部屋に置いてきたことに気づいて……そんな具合にバタバタとしながら身なりを整えていました。

 丁寧にアイラインを引き、飛んで跳ねても崩れないように髪を整え、発声練習を済ませれば準備はおしまい。私は鏡の前で頷いて、部屋の大きな窓を開けてベランダへと進みました。

 三階から下の交差点を見下ろすと、観客たちが橙色のペンライトを一斉に振り出します。止まっている車がノリの良い音楽を流すと、途端に人々の熱気がこちらに伝わってきました。

 息を整えてマイクを構えると、自分の声とは思えないほど可愛らしい歌声が喉から出てきました。乙女の心を綴った歌詞をさらりと歌い上げれば、歓声が辺りを包みます。私が視線を下へ落とすたび、誰かの黄色い声が耳に届きました。

 それから二時間ほどライブは続き、アンコール曲も歌い終わると冷たい夜風が頬を撫でました。観客の名残り惜しい気持ちが、空気の流れに変わったのでしょう。

 部屋に戻って「ああ、上手くいってよかったなぁ」などと思いながら、流れる汗を拭っていたところ、スマホのアラームが私を現実に引き戻してきました。カーテンの隙間からは、朝日がスポットライトのようにまばゆく差し込んでいました。

 一夜限りのアイドル体験、なかなか愉快だと思いませんか?またステージに立ちたいものですが、夢というものは操作できませんからね。

今日はこれから占い師と打ち合わせをしますので、もう書庫を閉じようと思います。もし他の夢が聴きたければ、他の語り手さんを訪ねるといいでしょう。

 それでは、おやすみなさいませ。

@kohakutou_neko
ねこすいたい