こんばんは。ご来訪ありがとうございます。今日はどんな話がよいでしょうか?
なるほど、爽快だけどちょっとハラハラする夢ですか。でしたら……こんなものはどうでしょう。紺色の早朝に、団地でパルクールらしきことをした話。
どういうわけか分かりませんが、気づけば私は大きな集合住宅にいました。それも、五階ほどの高さの壁に付いた室外機の上に。夜明けの近い、静かでひんやりした空気が、入り組んだ建物のなかでじっとしていました。
しかし私はじっとしていられません。一歩先に進んだ先は黒々としたアスファルト。足を滑らせれば、無事ではいられないでしょう。膝が笑っている中、私は一つの足場を見つけました。
それもやはり室外機。三階ほどの高さでしょうか、やや高低差があるものの、地面に直で降りるよりは可能性があります。私は震える脚をぺちりと叩いて、三階の室外機へと飛び降りました。何からも離れた身体に、月明かりで冷えた空気が強く当たって、ヒュンと風を切る音が耳元で鳴りました。
……無事に着地しましたが、着地の衝撃で室外機の立て付けが悪くなったようで、足元はずっと揺らいでいます。どこかの継ぎ目がミシリと音を立て、今にも壁からぽろりと取れてしまいそうでした。
「どうせ落ちるなら自ら飛び降りてやる!」と、私は室外機を蹴るように飛び出して、黒々とした地面に向かいます。不思議とそこに恐怖はなく、熱く波打つ血液を冷やす風を心地よく思っていました。
大砲でも撃ったような衝撃音が、人々の寝静まる団地に反響しました。自分が無傷なのに気づいて無性に嬉しくなり、そこらの小さな塀や謎のポールなどを飛び越え走っていました。
その後私は家に帰っていて、相変わらず紺色をした空を窓越しに眺めながら眠りに落ちていました。不思議なもので、人は夢の中でも眠たくなるのです。
ですから目覚めたとき、自分がどちらにいるのか分かりませんでした。古典的ですが、頬つねり判定法を試しました。ちゃんと痛みを感じました。
そういうわけで、お話はこれでおしまいです。ふと思ったのですが、団地であろうと室外機はベランダの中にありますよね。まっさらな壁に室外機だけあるって、どういう状況なんでしょう。
まぁ、夢なんてそんなものですよね。そういう奇妙な世界に、私たちは毎夜誘われているのです。今日も招待状が届きましたので、ここでおしまいです。
まだ眠れないのなら、他の語り部を当たってくださいね。おやすみなさいませ。