痛みのない日

kohana
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公開:2025/10/23

今日はびっくりした日だった。1年以上自分を苦しめてきた首の痛みがなかったからだ。

痛みの原因はおそらく猫背とストレートネックである。たぶん亀首も入っている。

自分は姿勢が悪い。これは小学生の頃から言われていた。理由は簡単で、本を読んだり文章を書いたりすると夢中になりすぎて、身体を丸めたりノートに顔を近づけたりするからである。鉛筆を持つ手にも力が入り、しまいには肩をすくめるようになる。両親がいくら注意しても直らなかった。

中学になると更に姿勢は悪くなった。これは読むことともかくこととも関係なく、いつ、誰に揶揄われるかとビクビクしていたためだった。

そのあと病気になり、治った自分は妙に態度のでかいやつになっていた。それと関係があるのかどうかはわからないが、背筋もそこそこ伸びていた。

姿勢がふたたび悪くなったのは、交通事故で身体の複数箇所を骨折して、更に眼を悪くして手術を受けてからである。まず、退院後も残った痛みから身体がわずかに歪むようになった。そして、手術の後遺症で眼のピント合わせが出来なくなり(つまり人工の老眼だ)本やノートとの距離の取り方が難しくなった。

この頃自分はフランス語の活用にはまっていた。フランス語の活用は、現在形、複合過去、半過去、過去分詞、接続法、条件法、命令法、単純未来などがある。さらに検定には出ないが単純過去というものもある。複合過去などと単純過去との違いを簡単に述べると、複合過去などは「去年の秋に食べたマロンパイは美味しかったよね」といった、今の自分と直接繋がる過去である。対して単純過去は「昔々あるところに、猿とカニが棲んでいました」といった、今とは切り離された過去を語るものであるらしい。単純過去は検定には出ないが、フランス語の本を読むなら必須である。そんなわけでどうにかマスターしたのだが、気がつくと肩と首と右手の指の筋ががたがたになっていた。ストレッチをしようとしても首が動かないので近くのクリニックで塗り薬をもらった。

それでしばらく落ち着いていたのだが、どういうわけか2年前から、その肩と首のこりがじわじわと復活してきた。自分は諸事情から引っ越しており、新しい住まいの近くにはクリニックがなかった。ストレッチやマッサージやツボ押しで誤魔化していたが、ついに限界が来た。よく知られている塗り薬を買い、左の首の筋を中心にそっと塗った。メントールで肌がひんやりする。昔、友人が夏にこれを背中に塗って扇風機にあたると冷房代が節約できる、と馬鹿なことを言っていたのを思い出したが、このような使い方は絶対にすべきではない。もっともひとり暮らしの男子はおかしなことをしたがるものらしく、別の友人はおかずをもやしだけにして、栄養不良で倒れて病院に担ぎ込まれた(大豆もやしだからタンパク質は採れるはずだと本人は言い張っていた)。

自分の塗った薬だが、最初は少し痛みが和らいだという程度だった。まあこんなものか。あのしつこい痛みが市販の薬だけで治るはずがない。また痛みが出れば1日4回までは塗れるのだし様子を見よう。そう考えて忘れていた。

1日過ごして眠って起きて、今日のお昼近くに、首の周りが全く痛くないことに気がついた。こんなに楽な1日は久しぶりだ。

効き過ぎて怖いような気がするが、これでフランス語の勉強時間を増やすことができる。長年読みたかった未訳の児童文学を手に入れたばかりなのだ。

2025/10/23

Kohana

@kohana
エッセイとAuto fiction。 自分の言葉を取り戻すリハビリのために書いています。 少しでも楽しんでいただければ幸いです。