面倒なことになってしまった。
なにを間違えたのか大学に願書を出していたのだ。そして特に試験もなく合格してしまった。正しくは入学を許可されてしまったのだ。
その大学は自分が10年と少し前に卒業したところだった。一度卒業したところに願書を出して受かるなんてことがありうるんだろうか。
実は合格通知は2月の初めに届いていた。ちょうどその頃抜歯で体調を崩していたので、褐色の大封筒を棚の上に置いたまま忘れていたのだった。棄てずに開けて良かったと思った。いや、気づかずに棄ててしまった方がいっそ気が楽だったかもしれない。
重い身体を無理矢理動かして中を確認した。辞退の期限は過ぎているから、今月中に学費を振り込まなければならない。考えていたより安いのがせめてもの救いだ。次に歯医者に行くとき郵便局に寄ろう。だけどどうしてコンビニ振り込みにしてくれないんだろう。校舎だってとんでもない古い木造の棟と、映画館や劇場まである真新しい施設が混在しているし、大量の渡り廊下があって迷路みたいだし、大きいばかりのへんな大学なのだ。
テーブルの上に書類を積んで頭を抱えた。どうして同じ大学の同じ講義を受けなければならないんだろう。いや、いくつか取れなかった選択科目には未練があるけど、正規の学生だから必修も全部取り直す必要がある。手間と時間の無駄だとしか思えない。入学後すぐに中退すればいいんだろうけど、学費が無駄になってしまう。どうしてこんな馬鹿なことをしたんだろう。願書を出したとき、自分は一体何を考えていたんだろう。
それから懐かしい教室の、ほこりで曇ったガラスと木の床と机と椅子と、文字通り真っ黒い黒板のことを考えた。机を並べて授業を受けた先輩たちのことを思い出した。もちろん今学校に戻っても誰もいない。先生だって替わっているだろう。でも、ガラス張りのチューブのような廊下の先にある、ラムネ瓶の色のシャボン玉のような図書館にはまた行ってみたいと思った。あの図書館は外部の人でも使えるんだろうか。
とにかく憂鬱なことがまた増えてしまった。いや、自分で勝手に増やしたのだ。どうしてこんな馬鹿なことが起きるんだろう。全部夢だったらいいのに。
目を開けると朝の5時10分前だった。ぼんやりした頭で大学のことを考えた。単位が取れていなかったとか、もう一度入学するとかやっぱり別の大学にしようとかいう夢は年に一度は見る。ああ、またあの夢か。
夢の中の大学はいつも同じだ。教室は高校とそっくりで、黒板は映画やドラマでしか知らない大昔の、木の板に黒い塗料を塗っただけのものだ。周りの学生は高校時代の先輩や同級生だった。でも、自分の行った高校も大学も敷地はあんなに広くない。長いスロープを降りた先に豪勢なシネコンなんてないし、並木道の左手の奥に学生と外部の劇団が交互に上演している劇場もない。実験室か家庭科室かわからないシンクの並ぶ部屋もないし、がらんとした白い謎の部屋もないし、かわいらしい店の並ぶ通りに抜ける裏口だってない。
もしもカリキュラムが全部新しくて高校時代の先輩に会えるなら、そして学校が夢の中のあの大学になら行きたいと思った。
それから学校のことを考えるだけで寝込んでいた中学時代の自分が、今のこんな私を見たらどう言うだろうと考えながらベッドを出た。
2026/02/20
Kohana