とある用事でとある場所に行った。
以前から手続きのために行く必要があったのだが、引っ越し後あれこれ忙しくて先延ばしになっていたのだった。いつか行かねばならないのなら、夏の猛暑が来る前に行っておいた方がいい。
その建物というか施設は、以前ならバス停から徒歩で5分の距離にあった。それなのに数年前にとんでもない場所に移転した。しかもその方面へのバスはほとんどない。なぜなのか。
仕方なく途中までバスを使い、残りの30分は歩くことにした。歩くのは苦ではない。いや、結構好きだ。問題は道順である。自分は病的な方向音痴なのだ。しかし、その目的地がよく使うバス停から南東の方向にあることだけは把握していた。
南東。厄介である。2DマップのRPGなら道など無視して突進できるが、リアルでは民家などが密集していて無理である。そして実はゲーム内でも草原や森や山間部はそれなりにモンスターがおり、通り抜けは難しいのだった。
ともかく道に沿って目的地に進むことにした。入り組んだ道をクリアするために有名なマップアプリを立ち上げる。しかし何かおかしい。アプリの指示通りに進むと古い飲み屋の脇を抜け、自分がいつか行きたいと思いつつまだ行っていない大型スーパーの裏に出る。しかも立体駐車場の壁に阻まれて肝心のスーパーは全く見えない。
そのスーパーをぐるりとまわり、人間から見ると明らかに遠回りの道を選びながら、マップは得意げに自分を案内した。10分ほど歩くとあとは一本道だった。もう迷うことはないだろうとほっとした。
しかしその一本道が恐ろしかった。見渡す限り空っぽの畑の中を、二車線の舗装道路がまっすぐに伸びている。住宅地は遙か彼方である。車もほとんど通らない。万が一落ちれば怪我をしそうな、なのに柵ひとつない川が時折流れている。もしかして自分はおかしな世界に迷い込んでしまったのではないか。SF短編メシメリ街道を思い出す。生きて戻れたら山野浩一氏の短編集を買わなくては。
いや、これは現実だ。ひたすら歩くと人工物が見えてきた。看板だ。それに車のまばらな駐車場と、駐車場を取り巻く建物が見える。田舎には珍しくない風景だが、こうした施設をなんと呼ぶのだろうか。建物はほぼすべて平屋で、スーパーとかアニマルクリニックとか雑貨屋とか美容院だ。マックやミスドやジムもある。しかし自分の目的地はその更に先だった。
どうにか目的地に着き、受付を済ませると担当の若い男性は口を尖らしてこう言った。
「ソノ手続キ、ネットデデキマスヨー」
帰りは雑貨屋でグラスと小皿を買った。マップを見ると、ちょうど15分後に最寄りのバス停からバスが出るらしい。信じて歩くことにする。現在地は道から逸れて他人様の家に入っている。もちろん自分がいるのは歩道である。田舎だからか。
家とは反対方向に数分歩くとマップは言った。
「目的地です」(ドヤア)
バス停だ。
しかし行き先は反対方向だった。
横断歩道を探して道を渡り、更に数分歩いて帰りのバスに乗った。
疲れた。
2026/02/27
Kohana