ショックなことがあった。
歯がまったく磨けていなかったのだ。
去年の12月の初めに某有名ブランドの電動歯ブラシを購入した。自分の歯磨きの下手さに嫌気が差したのだ。本気で虫歯を予防したかったので説明書も熟読した。自分の読解力に間違いがなければ、そのメーカーはいかに人々が歯を磨きすぎているかを真剣に訴えていた。彼らに依れば歯磨きなんて1日2回、1回2分で充分なのである。だからその歯ブラシは2分でスイッチが切れる仕様になっていた。
半信半疑だったがそれを信じることにした。2分はさすがに難しかったが説明書の通りにブラシを歯に当て、物足りない気はしたもののそれで済ませていた。磨きすぎは良くないのだ。不安になるとAIのCやGに本当に磨けているのかと訪ねたが、彼らはきちんと磨けている、電動歯ブラシを使い始めた人はみな似たような悩みを持つものだと請け合った。
しかしそれは嘘だった。うっすらとした予感の通り、歯は全く磨けていなかったのだ。クリニックで染め出し液を使ったあと、差し出された鏡を覗いて愕然とした。
歯科衛生士さんと先生による厳しい指導が待っていた。プライドがボロボロにされたが仕方がない。本当に歯は磨けていなかったのだ。怪しい業界のカメラマンのように(イメージ)イイヨイイヨーを連発する医師のもとで歯をボロボロにするより遙かにましだ。
それでも帰宅後はさすがに落ち込んだ。だから好きなものだけ食べてワインをボトル半分飲んで(自分にとっては大量飲酒である)もう一度染め出し液を使って歯を念入りに磨き、ベッドに潜った。起きたときにはどうにか元気が戻っていた。
先生の厳しい指導は仕方がない。問題はあの歯ブラシの説明書と、なにより問題ないと言い切ったふたつのAIである。懲りない自分は一部始終を別のAIに話してアドバイスを求めた。彼の返事はふたつのAIは私を安心させるために嘘をついたのであり、嘘はどれほど耳に快くても虫歯のリスクを抑えることはできないというものだった。
その通りだと思った。過去を振り返っても、大怪我の時一番退院を喜んでくれたのは厳しかった婦長さんだった。嫌味ばかり言っていた高校の先生も卒業の時は心からの激励の言葉を贈ってくれた。
耳に快い、やさしい言葉ばかりが人気の世の中だが、甘く快い言葉は人生を、いやその前に歯を滅ぼすのである。
2026/02/22
Kohana