ショックなことがあったとき

kohana
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公開:2026/1/5

ショックなことがあった。

年明け早々歯医者に行ったところ、クラウンの中が虫歯になっていた。怪しいとは言われていたが、先生の予想を上回る大きな虫歯のようである。幸い歯自体にぐらつきはなく、根も残せる可能性はあるらしい。今はその部分には根しかない。そのせいかなんとなく落ち着かない気分だ。

以前の自分は思春期のエキセントリックな部分を引きずっていたので、こんな時は大変だった。歯のひとつが大きな虫歯になるだけで世界が終わるような騒ぎである。でなければ逆に、自分の歯が元通りにならないのなら世界が終わって欲しいくらいに思い詰めてしまう。迷惑だ。歯のことばかり考えて眠れなくなり、ものが食べられなくなり、本が読めなくなり、何を見ても笑えなくなる。

しかし、今の自分は違う。

最初に虫歯について知ったときは、お腹が重くなったり動悸がしたり、頭に血が上ったようになったり軽い目眩を感じたりした。自分はショックを受けているなと思った。

それから考えた。このショックをどう扱うべきなのだろうか。これは絶望するようなことなんだろうか。それともたいして心配するほどのことではないんだろうか。他の人ならどんな風に感じるのだろう。自分の知り合いは放置していた虫歯が旅行先で抜けてしまい、それをハンカチに包んでポケットに入れてチキンを食べ続けたらしいが、さすがにそれは行き過ぎだろう。でも寝込むのは大袈裟だ。

次のバスまで時間があったので、クリニックを出て周囲を歩いた。自分は病的な方向音痴だが、まめにマップアプリを確認すればこうした暴挙に出ることも可能である。

古いペパーミントグリーンの、砂糖菓子のような家の前を通った。店舗ではないようだ。こんな田舎にこんな家があるなんて不思議だ。昔はどんな風だったのだろう。かと思えば、もう使われてはいないだろうというような錆だらけの建物の、やはり錆びだらけのベランダで洗濯物が踊っている。

バスの時間が近づいたので書店で1冊本を買い、バス停に向かう。この書店は自分が小学生の頃には既にあった。ここでみつけて、でも高すぎて買うのを躊躇った歴史の本が中学校の図書室にあり、夢中で読んだのを覚えている。

バスに乗る頃にはかなり気持ちが落ち着いていた。歯の1本や2本が虫歯だって、最悪抜歯で入れ歯かブリッジかインプラントになったって、食べたり飲んだり本を読んだり笑ったりすることはできるのだ、というか、してもいいのだ。ひとつの不幸を拡大して人生の楽しみをすべて投げてしまうのは勿体ない。

こんなとき、どう感じればいいんだろう。今の自分の答えは「どんなときも幸せを感じていい」である。

スマホをチェックすると自分の好きな番組が配信されていた。イヤホンをつけてバスを降り、買い物をして家に帰った。

2026/01/05

Kohana

@kohana
エッセイとAuto fiction。 自分の言葉を取り戻すリハビリのために書いています。 少しでも楽しんでいただければ幸いです。