『銀のスケート』を読んでいる。アメリカの古い児童文学で、一度読み始めたらやめられないと噂の傑作である。そんな素晴らしい作品なのに翻訳は皆絶版、その翻訳もほとんどが抄訳だと聞いた。なぜか。
ずっとこの本を読みたいと思っていた。一度某古書店で美品を見つけたのだが、そのときはなんとなく買いそびれてしまった。そして気がつくと古本はどれも入手困難だったり、けっこうな高値がつくようになってしまっていた。それはまだいい。欲しいものなら10倍でも出す。問題は抄訳だということだ。
だったら原書で読めばいいではないか。ふと思った。児童文学ならそう難しくはないはずだ。Madeleine L'EngleのSFジュブナイルMany Watersと、アメリカのガールスカウトの女の子たちを主人公にした児童小説The Brownie Scouts の1作目をさらっと読めただけで自分は調子づいていた。調べると海外版青空文庫のようなものにHans Brinker or The Silver Skates、つまり銀のスケートが入っていた。無料だ。少し冒頭を読むとどうにかついてゆけそうだった。
内容は想像よりずっとシリアスだった。舞台はオランダである。主人公は兄と妹で、ふたりの父親はあることがきっかけで深刻な病気というか、怪我の後遺症を患っている。母親はかいがいしく夫の世話をし、妹は一家の不幸に心を痛める。そして兄はある日、有名な医師に父親を診てもらう約束を取り付けることに成功する。
すでに自分はここで息切れを起こしている。わからない単語が多いしドイツ語やオランダの固有名詞が頻繁に出てくるからだ。そもそもこの物語の登場人物は全員ドイツ語を話している設定なのだ。「俺たちの中で英語を話せるのはあいつだけなんだからな」という台詞があったではないか。なんで私は英和辞典を引いてるんですか。
しかしどうもおかしい。物語の中心がスケートで小旅行に出掛けた少年たちに移っている。しかも彼らは何かに取り憑かれたようにいちいち寄り道をするのである。美術館とか教会とか博物館を見つけては入り、中を見て回り感動し、自分たちの先祖である英雄の物語に酔いしれる。
「おい、早くしろよ」と仲間の一人が声を上げる。「そうだそうだ」と辞書を引きながら自分も言う。伝承は面白いし泥棒をやっつけるエピソードもハラハラしたが、あの貧しい家族が心配なのだ。なのにどうしてこう話が進まないのか。自分の読解力と語彙力がまだまだだとか、1日30分ほどしか読む時間が取れないのもあるが、この寄り道は異常だ。
AIに訊ねると、抄訳が多いのはこの寄り道部分を省いているためらしい。普段は抄訳が嫌いな自分だが、今回ばかりは納得した。そういえば冒頭でスケートの大会がどうとか言っていませんでしたか。もうその記憶もおぼろである。春が来るまでには読み終えたいなあと思っている。
ところで先日完訳に近い岩波少年文庫版を古本で買った。言っちゃなんだが定価の3倍した上に状態は表示にあるほどよくなかった。でもいいんだ、だってあの石井桃子さんの訳なのだ。読み終えたらこれで答え合わせをしよう。それまでは棚に飾っておこう。
2026/02/24
Kohana