生理的に受け付けない

kohana
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公開:2026/1/19

生理的に受け付けない、という使い勝手のいい言葉がある。口にするのは主に女性で、男性に対して使われる(気がする)。「いい人なんだけど生理的に受け付けないんだよね」から「あんなの絶対無理、生理的に受け付けない」まで生理的嫌悪のレベルはさまざまだ。どちらにしても言われた側にとっては残酷な言葉である。

だから自分としてはなるべく使いたくないのだが、過去に一人、この言葉にぴったり当てはまる人がいた。

彼はけっこう顔がよかった。背はあまり高くなかった。学歴は高卒だったが、資格を取って収入を上げようと努力していた。彼の仕事はおしゃれな女子からは馬鹿にされるが、実際には高収入を狙える世の中には必須の仕事だった。

なぜ彼を好きになれいのかわからなかった。身長や仕事が理由でないことは確かだった。自分が人生で一番かっこいいと思った学生時代の先輩は身長が低くて家がその仕事で、顔は彼ほどよくなかったからだ。なのにやることなすこと全部かっこよかった。ああかっこよかったなあ(と今思い出してため息をついている)。

彼は私が気に入ったようで、席が空いていれば必ず隣に座った。荷物は断らなければ持ってくれた。やたらと話しかけてくるのだが、その割に話は続かなかった。緊張していたのかもしれないし、元々口下手だったのかもしれない。たまに仕事の愚痴をこぼしかけても「女性に話すようなことじゃないから」と口をつぐんだ。それがいいか悪いかはともかく、とにかく気を遣ってくれる人だった。

付き合ったら大事にしてくれるんだろうなと思いつつ、どうしてもこっちはその気になれなかった。彼の好意があからさまになるにつれて気分が重くなり、自分から距離を置いた。そしてそれきり忘れてしまった。それくらい好きになれない、未練のない相手だった。余談だが先輩にはまだ未練がある。ああもったいない(先輩が)。

5年ほど前、実家の片付けをしているとアルバムが何冊か出てきた。一番古いアルバムには父の中学から大学時代までの写真が収められていた。それを見て自分はうわっとなった。

あの彼にそっくりだったのだ。

そしてその若い頃の父はまさに自分にとって、生理的に受け付けないタイプだった。顔が悪いわけでも不潔にしているわけでもないし、初めて見た写真が海パンいっちょでしゃがんでいたせいでもない(潮干狩りの写真だった)。ただただなんか無理なのである。

「年頃になった娘が父親を過剰に嫌うのは本能的なものである」という説がある。真偽のほどはわからないが、自分のこの嫌悪感にはその説明がぴったりだった。とにかくだめなのだ。理由はない。生理的に無理なのである。

小さい頃の自分は父親になつきすぎ、祖母がこの子は結婚できるのかと心配したそうだが、激しい反抗期を経てめでたくその危機は脱していた。

もっともその後、自分は結婚自体に向かない人間だと気がついたので結局未婚で終わりそうである。先輩でも結婚は無理です。

2026/01/19

Kohana

@kohana
エッセイとAuto fiction。 自分の言葉を取り戻すリハビリのために書いています。 少しでも楽しんでいただければ幸いです。