ATRAS3が一部で話題になっている。常識的に考えれば小惑星なのだが、知的生命による建造物の可能性が否定できないらしい。どんなに小さくても可能性は0ではない。そのため一部の人たちが、仮説や陰謀論を付け加えて鼻息を荒くしている。
UFOという言葉を目にする機会も最近増えた。ドローンや気球の影響か、UFPと呼ばれることもある。未確認飛行物体ではなく未確認飛行現象だ。UFOはべつに宇宙人の乗り物と決まったわけではない。なんだか正体がわからないからUFOなのである。
ところでこの未確認飛行物体、あるいは現象を、母の友人が目撃したことがある。
秋のはじめの暑い日だった。その人は仕事を早く終え、買い物をしようと車でスーパーに向かった。いつも通る道、普段からかよい慣れたスーパーである。駐車場に車を停め、降りてドアを閉めたときに、近くに立っていた女性から声をかけられた。
「ねえ、あれ」
たくましい、おかみさん然とした身体つきのその人は、そう空を指さした。母の友人の全く知らない人だった。その指の示す方に目を向けると、毎日見ている山の上に、燃えるようなオレンジ色のなにかが浮かんでいた。
「なんでしょうね、あれ」母の友人は言った。
「ねえ、ちょっとおかしいわよね」
小さな子供連れの主婦やお年寄りが、同じように空を見上げて口々に、あれはなんだろうと言い出した。
「だけど不思議なのよ」と、母の友人は首を傾げた。「そのオレンジ、ものすごく大きかったの。そんなものを見れば普通はパニックになるじゃない? もしうちの子が一緒に居たら、まずその子を抱きかかえて建物の中に入るか、車に乗って逃げたと思う。でも、誰もそんな風にはならなかったんだよね」
見物していた人たちは、数分もするとそれぞれの用事ために散っていった。そのオレンジの物体がどこかに飛んでいったのか、それともふっと消えてしまったのかもわからない。だれも見ていないからだ。
もっと詳しく訊こうとしたが、母の友人は「ものすごく明るいオレンジで、四角いような、丸いような、細長いような…」というふうで、形についてさえ正確に話すことができなかった。
その物体だけでなく、体験自体が未確認というような、変な話だった。
2025/11/03
Kohana