感覚の問題

kohana
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公開:2026/3/13

歯科クリニックで歯の磨き残しを指摘されてから歯磨きが趣味になった。毎日夜、歯磨きのあとに染め出し液を使い、手鏡や小さい懐中電灯も駆使して赤く染まった部分を磨きなおしている。楽しい。

しかし毎日口を赤く染めるのはどうか。唇に着いた色素はすぐに落ちるが、舌は翌日の夜まで赤が残っている。つまり自分は最近常にチューリップピンクの舌をしているのだった。更に染出し剤を使わないと気持ちが落ち着かなくなってきた。依存症になりかかっているのではないか。困った。

そこで染め出し剤の使用は週2度とし、普段は舌で触って磨き残しをたしかめることにした。一般的な方法である。だがここに落とし穴があった。

つるつるとぬるぬるの違いは何か。

どうも奥の小さい歯が、きちんと磨けているのにぬるぬるする気がするのだ。そもそも自分のつるつると他人のつるるつがなぜ同じだとわかるのか。それが証明できない限り、舌で触って確かめるのはリスクが高いのではないか。

いきなりおかしな屁理屈をこね出したが、これは私の子供の頃からの一大テーマなのである。たしか小4の時だったと思うが、腹痛で病院に行き、そこの『大工と鬼六』出てくる鬼六のような先生に

「その痛みは、チクチクとシクシクと、どっち?」

と訊かれたのがきっかけである。

自分は当時慢性的な痛みに悩まされており、重い病気ではないかと心配していた。ここで間違えれば先生は診断を誤り、恐ろしい病気を見落とすかもしれない。悩みに悩んだ自分は「しくしく‥‥かなあ」とどうにか答えた。

腹痛の原因はこじれまくって破裂寸前になった盲腸炎だった。手術で鬼六に盲腸を取ってもらい元気になったが、あれ以来、自分のシクシクは他人のチクチクなのではないか、という不安は常につきまとっている。自分のつるつるだって他人のつるつるではないのかもしれないのだ。

などと悩みながらあれこれて読んでいたところ、歯についてすぐの汚れはざらざらしているので、それが落ちればいいんだそうである。自分が心配すべきはつるつるとぬるぬるよりつるつるとざらざらだったらしい。さすがにつるつるとざらざらは間違えないだろう。

そんなわけで昨夜は染め出し剤を使わなかった。でも週に2回のチェックは続けるつもりでいるし、次は2色染めのもの(古い歯垢は紫に、新しい歯垢は赤に染まる)を買おうと思っている。「不安だから検査する」のが嫌なだけで歯垢チェック自体は好きなのだ。ああ愉しみ。

2026/03/13

Kohana

@kohana
エッセイとAuto fiction。 自分の言葉を取り戻すリハビリのために書いています。 少しでも楽しんでいただければ幸いです。