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遠い町に住む叔母の話

kohana
·
公開:2026/9/9

小二くらいまで、血のつながっていない伯母がいた。母の兄の奥さんだった。

その人は両親が忙しいとき、時々自分を預かってくれた。私の母はしつけに厳しく、父は流行に興味のない人だった。それを不憫に思ったのか、伯母は私にフリルやレースのついたワンピースを着せてくれたり、流行の玩具を買ってくれたり、おしゃれな喫茶店でケーキをごちそうしてくれたりした。丸顔のおっとりとした人だった。

しかし、母方の親戚内での彼女の評判は芳しいものではなかった。その伯母は、祖母や私の母から見ると派手好きで遊び好きなのである。どうして兄さんはあんな人と結婚したのかしら、と母はことあるごとに言っていた。そう言いながら子供の私を預けていたのだから、今思えばいい気なものである。そして祖母は義理の娘であるはずのその伯母を、いつまでも他人行儀にさんづけで呼び続けていた。

ある日、伯母が姿を消した。他に好きな男の人ができて出て行ったのだ、と母は呆れたように私に説明した。不倫による駆け落ちである。

それからしばらくして、なんと伯母は帰ってきた。男の人に騙されていたのだ。

「外交官だと言っていたのに、ちり紙交換だったらしいよ」と祖母は嘲るように言った。ふだんは学歴や肌の色、仕事や国籍で人を差別することのない祖母だったが、男女の関係にだらしがないことだけは許しがたい罪なのだった。

当時、おひさまはらっぱとか、もりのへなそうるとか、ちいさいももちゃんを読んでいた自分は状況が良く飲み込めなかったが、外交官とちり紙交換のギャップにはさすがに衝撃を受けた。

その後も伯母は何度かゴタゴタを起こして本当に出て行ってしまった。

伯父は穏やかな人で、子供の目から見ても伯母を大切にしていた。伯母がかんしゃくを起こしても、いつもじっと耐えていた。出て行かれたときも、「人の気持ちはどうにもならないからね」と寂しそうに笑っていた。そんな伯父が感情的になったのは、祖母、つまり伯父の母が他界したときだけだ。

もしかしたら、伯母が出て行った本当の理由はそこだったのではなだろうか。伯母はきっと自分のために、伯父に感情的になってほしかったのだ。

それから長い時間が過ぎ、成人してかなりたった後に伯母と会う機会があった。彼女はまるで伯父のように穏やかな、小さなおばあちゃんになっていた。遠い町で再婚して幸せに暮らしているのだと言った。ご主人は面長の、やはり穏やかそうな人だった。

私を見て、「こはなちゃん、全然変わっていないのね、すぐにわかったわ」とにっこりした。さすがにそれはやめてくれと人並みに化粧をしていた自分は思った。

母はその夜、「あの人はいろいろ問題があったけど、お前ををかわいがってくれたよね」と呟いた。祖母と同じくおさかんな人を嫌う母だが、伯母のことは許したのだ。

昨夜、ニュースでその伯母の住む辺りが大雨に見舞われていると知った。正確な住所はわからないし、連絡手段もない。でも、伯母や伯母の住む町の人々が無事でありますようにと思いながらテレビを見ていた。

2026/09/09

Kohana

@kohana
エッセイとAuto fiction。 自分の言葉を取り戻すリハビリのために書いています。 少しでも楽しんでいただければ幸いです。