キンモクセイのお酒の話

kohana
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公開:2025/10/25

キンモクセイのお酒を飲んだ。桂花陳酒という名の、楊貴妃も愛飲したとされる中国のお酒である。高級なものを求めればきりなく高価なのだろうが、自分は大手メーカーのお手頃価格のもののを選んだ。それでも充分に美味しかった。

キンモクセイは好きな花のひとつだ。花の季節のたびに、「この木に果物が実るとしたら、どんな味だろう」と考えていた。そして、キンモクセイの実の加工品については聞いたことがなかったが、キンモクセイのお酒を扱った物語を昔読んだことを思い出した。あれはフィクションだから実在はしないだろう、そう考えつつ検索すると、それらしきものがヒットした。もっとも実在のお酒は白ワインに花をつけ込んだものらしく、物語に登場する酒はたしか、ウィスキーに花を投げ入れたものだった。

その物語は立原えりかさんのごく短い、大人向けの童話である。この人の作品を熱心に読んでいた時期があった。当時の自分はもう童話を読むような歳ではかったが、立原えりかさんの作品は一般的な童話とは違っていた。

童話と聞いてほとんどの人が思い浮かべるのは、やさしいとか、子供たちに夢を与えるといった、つかみ所のない言葉だと思う。たしかに童話には残酷なシーンは出てこない、と言いたいところだが、グリムやペローの本にはけっこう残酷なエピソードが登場する。子供というものは怖い話が好きなのだ。

対して立原さんの童話には血みどろのシーンは出てこなかったが、常に人の心の奥に隠れたうす暗さ、ときにどす黒さのようなものが描かれていた。そして、そのどろどろした部分には、子供にはまだわからない、ちょっと古めかしい言葉で言うと男女の愛憎というものが入っていた。中学生の自分はその部分に惹かれたのだ。同時期に倉橋由美子の『大人のための残酷童話』も読んでいたから、まあそんな年頃だったのである。

そのキンモクセイのお酒の物語について、ネタバレ含みで書いてしまうと、人生に絶望した女性がぎりぎりのところで成功をつかむ、というものだ。自分はのんきに生きているが、傍から見るとけっこうな崖っぷちである。誕生日が近いので、願掛けのようなつもりでキンモクセイのお酒を飲んでみた。

2025/10/25

Kohana

@kohana
エッセイとAuto fiction。 自分の言葉を取り戻すリハビリのために書いています。 少しでも楽しんでいただければ幸いです。