虫歯を抜くことになった。
日取りを決めて予約も入れた。翌日の朝ゴミ出しがあるのが不安だが、まあどうにかなるだろう。
次に考えなければならないのは抜いたあとの処置である。
そのままか、入れ歯かブリッジかインプラントか。
そのままというのはあり得ない。ネットで調べるとほとんどの医師や自称医師はそう書いている。よく噛めないと食が細くなって痩せてしまう。身体のバランスが崩れてほかに不調が出る。それだけではない、頬がたるんだりほうれい線ができたり、見た目にも影響が出るのだ。保険内でできる入れ歯やブリッジは悪くないけどちょっとね、完璧な健康と美のために私の推奨する素晴らしいインプラントか特別製の入れ歯をどうぞ。こんな感じだ。
インプラントかあ。インプラントは高い。高いが出せない額ではない。かかりつけの先生は昔アメリカに渡ってインプラントを勉強したその道の権威である。でも顎の骨に穴を開けるなんてやっぱり怖いし、歯磨きを怠ると歯周病になりやすいと聞いた。そう考えるとブリッジか入れ歯だろうか。
心配性の自分は抜歯が確定する前からこうしたことをくよくよと考えていた。
だから、抜歯と決まってすぐにこう質問した。
「あのう、抜いた後はどうするんでしょうか」
きっとインプラントを勧められるな、と思ったがそうではなかった。
「ああ、この位置の歯だとね、そのままの人が多いです」
「?」
「慣れると噛むのにも特に問題ないの。ブリッジも固定があまくなるし、作っても結局しなくなる人が多いです」
なんだか話がかみ合っていない気がした。
「じゃあ、そのままにした場合のリスクはありますか」
「うーん、個人差があるけど」と前置きして先生が教えてくれたのは、歯がなくなった部分を埋めるためにほかの歯が動いて周辺の歯並びが悪くなる。また、噛む力のバランスが変わるため歯並び全体にゆがみが出やすい。しかしこれは長期的なリスクで、無視できる程度に収まることも多いというようなことだった。
美容の話はなかった。審美歯科じゃないからか。
気になったので帰宅後AIに訊いてみた。先生の判断は正しく、奥歯1の抜歯なら輪郭に影響が出ることもないらしい。根気よく調べるとほぼ同じ内容の解説がヒットした。この先生は審美歯科ではなく、説明もかなり丁寧だった。10年以上前に同じ位置の歯を抜いたけどなんともない、という人もいた。
そうか、1本くらいなら問題ないのか。
そういえば怪我の後の白内障の手術の時も、前の晩までネットであれこれ調べたのにそんな知識は必要なかった。よく本を読みます、と言うとピントを手元に合わせてくれて、ついでに乱視も治してもらったのだった。
そう、自分は身体中にチタン合金が入っていて眼のレンズも人工なのだ。これで歯が1本なくなったり人工物になっても誤差の範囲である。気にせず楽しく生きてゆこう。
2026/01/18
Kohana