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籠もるとこと固まること

kohana
·
公開:2026/10/12

その夜、自分はとある書類を書いていた。

一部はプリント済みで、記入方法を記した冊子がついている。しかし、その説明が丁寧すぎて却ってよくわからない。調べものも必要なのでファイルをひっくり返したり、家族に訊いてみたりする。

提出は必須ではなかったが、出すとお得なのである。そんな手続きはけっこうある。

半分埋まった書類と説明書を交互に眺めながら、以前の自分ならこの手続きはできなかっただろうと思った。以前とはひきこもりだった頃のことである。もっとも当時は親が元気だったので、この手の面倒ごとは親がやってくれていたのだ。

今の自分もある意味では引きこもりだ。最低限しか外に出ないからである。しかし、必要ならばどこにでも出かけていくし、誰とでも話すし、どんな手続きも自分でする。その手続きのひとつがこれだ。

籠もるのは本人の自由だが、必要なことができないのは困る。インドア人間と引きこもりの違いはここだ。引きこもりの人は身動きがとれない。出ないのではなく出られない。だから必要なこともできない。

最大の理由は怖いからだ。しかし、何が怖いのかは本人も説明できない。ただ、今のこの状態が変わるのが嫌なのだ。その状態だってたいして快適ではなかったりするし、いつまでも続けられるわけではないのもわかっている。でも、自分が行動を起こしたら今より酷くなるかもしれない。そんな風に考えてしまい、動けない。

自分もそんな時期があった。毎日しんどかったのだが、変化よりは今の生きづらさの方がずっとましだと思っていた。前向きになんてなれないし、主体性なんてない。やりたいことがあるとすれば、ずっとこうしていることだった。ここに引きこもりの難しさがある。

そのしんどさから抜けるには、変化なんてたいして怖くないと学んでゆくしかないのだが、これも簡単にできることではない

引きこもりの問題について、国は途方に暮れているように思える。統計を取ったり定義を決めたり、寄り添いの姿勢を見せたりと頑張っているが、自分から見るとなんだか頼りない。

書類の話に戻ると、無事記入を終えて封筒に入れようとしたとき、こんな文字が眼に入った。

「切手を貼ってください」

切手? わざわざ買うの? 今の郵便料金っていくらだっけ?

そんなわけで投函は3日後になった。遠回りをしてコンビニに寄るのがめんどくさかったからだ。それよりは家で本を読みたいのである。

この程度の籠もり癖は一生治らないだろう。

2026/10/12

Kohana

@kohana
エッセイとAuto fiction。 自分の言葉を取り戻すリハビリのために書いています。 少しでも楽しんでいただければ幸いです。