日曜の夕方、突然片目が痛み出した。睫毛が入ったのかと洗ったり瞬きしたりしたが治らない。自分で見てもそれらしきものは見当たらない。
痛みは常にあるわけではない。眼を動かしたりかがんだり、風に吹かれたりするとビリッと痛む。埃の多いところでも痛い。白目も次第に充血してきた。少量だが目やにも出る。
幸い月曜は時間の融通が利く日だった。今のうちに病院で診てもらおう。いや、それ以前にこの痛みに耐え続けられる自信がない。今までにない痛みなのだ。
しかし田舎は眼科が少ない。以前住んでいた町はショッピングモールの中に眼科があった記憶があるが、田舎のクリニックはすべて戸建てだ。若草物語の続編には「ビルの中にある歯医者」というものが登場する。初めて読んだときはイメージしづらく、大人になってから似たものを見つけて感動したのを覚えている。戸建てでないクリニックは都会の象徴なのだ。
どこに行こうかと考えつつ大手マップアプリを開く。昔は5軒あった戸建ての眼科のうち、一軒は廃業していた。もう一軒は非常に評判がよく、自分も時々お世話になっていたのだが、数年前に代替わりしてからは低評価レビューが並んでいる。待ち時間も長いらしい。迷った末、残りの中からそこそこ評判の良さそうな処に決める。
しかしその病院の情報があまりない。カード決済はできるのだろうか。わざわざ電話で聞くのも面倒だ。その病院の最寄りのバス停近くにコンビニがあったはずだ。そこで下ろせばいいか。
朝早くに家を出た。目的地近くのバス停で降り、コンビニを探すと駐車場になっていた。マップアプリを見ると確かにコンビニのマークが消えている。潰れたのだ。
田舎はコンビニが少ない。仕方がないので病院とは反対方向にひたすら歩いて別のコンビニで数千円下ろす。それから元来た道をまた引き返して病院に向かう。
どうにかたどり着くと、広々とした待合室のシートの七割がすでに埋まっていた。うち八割はお年寄りである。受付を済ませて隅に座り、持ってきた本を読んで時間を過ごす。スタッフの方たちは皆手際がよく優しそうだ。患者さんはどんどんはけてゆき、考えていたよりもかなり早く番が来た。
痛みの原因は異物だった。自分の睫毛が上の瞼の隅に刺さっていたのだ。眼を動かしたり下を向いたり風に吹かれたり水で洗ったりするたび、その睫毛がわずかに動いて眼球を傷つけていたらしい。目薬で麻酔をしたあとピンセットで抜いてもらう。緊張のあまり石のように固まって処置を受けたが、先生は非常に気さくで丁寧な方だった。当然だが痛みは跡形もなく消えた。
悪い病気ではなかった安心感と、睫毛だったがっかり感とでふらつきながら診察室を出て会計を待った。
自分の前に呼ばれたおばあちゃんがスマホを取り出し、小さな機械にかざしている。ピッと音がした。ああ、わざわざコンビニを探して引き返す必要ななかったのか。そして田舎のおばあちゃんでもピッができる時代なのだ。
寝る前にスマホを見ると12キロ歩いていた。無駄な距離である。しかし運動になったし、いいクリニックに出会えたからよしとしよう。
2026/09/15
Kohana