自他共に認める歯磨き下手である。
去年の末に電動歯ブラシを買ってすっかり安心していたのだが、歯は全く磨けていなかった。使い方が間違っていたらしい。2ヶ月半、自分は歯垢べったりの歯で生活していたことになる。恐ろしい。
クリニックでの歯磨き指導には打ちのめされたが、歯垢の存在は事実である。その夜から歯磨きの自主トレが始まった。
用意するものは電動歯ブラシ、普通の歯ブラシ、歯磨き粉、それに脱脂綿と歯垢の染め出し剤である。真っ赤な液体またはペーストで小さな容器に入っている。祖母が昔よく使っていた傷薬、赤チンを思わせる。祖母は生涯すべての傷薬を赤チン、すべての洗剤をライポンと呼んでいた。自分はライポンは見たことはない。
まずはクリニックの指導を思い出しながら、電動歯ブラシを歯に1本ずつ丁寧に当ててゆく。電動歯ブラシの説明書は無視する。あんなふうに全面を当てても意味がない。ブラシの主に先を使って、歯と歯の境を意識する。歯科衛生士さんによれば軽く押しつけては離す、と繰り返すといいらしい。
すべてを磨き終えたあとに染め出し剤を使う。脱脂綿にしみこませて塗りつけるより、歯ブラシに出して歯全体をそっと撫でると便利である。軽くすすいで鏡を見ると、汚れの残った部分が赤く染まっているのでそこを磨く。幾度か繰り返すとブラシの届きにくいところがわかってくる。自分の場合は丸く小さい奥歯の境だ。もっともこれは一般的に磨きにくい歯であるらしい。
仕上げに普通の歯磨き粉で軽く磨く。これはなくてもいいが、口の中がすっきりするのでやっている。染め出し剤は歯に着いたものは30分ほど、歯茎のものも数時間で落ちる。舌に着いたものは丸1日建っても完全には落ちない。指や唇に着いたものも落ちにくい。
ということを忘れて歯磨きのすぐあと、宅配便が来たので受け取りに出た。業者さんは一瞬ぎょっとし、物騒な赤ではないとわかるとまだ引きつった笑みを浮かべて荷物を手渡した。
咄嗟に「今日ボルシチなんです」と嘘をついた。もっとも冷凍室にビーツがボルシチ1回分入っているのは本当だ。ビーツを素手で扱うと手が真っ赤になるのも本当だが、ビーツの赤はもっと濃い色である。でもほとんどの人は気が付かないだろう。
自分はしばらく毎晩ビーツを食べる女になるので、万が一指や舌が赤く染まっていても気にしないでいただきたい。
2026/02/23
Kohana