フライパンが燃えた日

kohana
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公開:2025/11/9

今のキッチンのガスコンロは3口タイプである。小さなものが奥にひとつ、普通の大きさのものが手前にふたつあり、きれいな三角形をつくっている。

最初見たとき、こんなにいらないよと思った。子供の頃の台所のコンロの口はふたつだったし、小さな部屋で一人暮らしをしていたときは、電子レンジと小さい電気コンロ(IHではない)で不自由せず暮らしていた。こんなにたくさん、いったい何に使うんだ。

でも、実際に使ってみると具合が良かった。餃子を焼きながら蒸し野菜を作れるし、特に奥の小さな口は、ミニフライパンやミルクパンにぴったりである。だからその日も奥の口で、ひとりぶんの雑穀米を炊いていた。自分は雑穀を混ぜた米を鍋で炊くので、炊飯器は持っていない。

皿洗いなどをしてコンロの方に目をやると、なんとフライパンの取っ手が燃えていた。間違えて手前の火を点け、運悪くその上にフライパンの把手がかかってしまったのだ。

困ったな。自分は不思議と冷静だった。どうやって消せばいいのか。幸い火はまだ小さい。消化器は一応あるけど、泡だらけになったら後片付けがめんどくさいな。

くだらないことをめんどくさがっているうちに、火は少しずつ把手に沿って燃え広がった。どうも消えそうにない。しかし、把手が全部燃えれば勝手に消えるかもしれない。金属部分は燃えないはずだからだ。

と思った瞬間、火がめらめらっと20㎝くらい上に伸びた。

火事だ! とそのときやっと思った。自分は我に返ったように、持っていたタオルを水で濡らし、把手にかぶせて火を消した。

消えた途端、すさまじい異臭がキッチンに満ちた。タオルの下で、しばらくの間ぷすぷすと音がしていた。

ああびっくりした、と自分は胸をなで下ろし、その燃えたフライパンと、焦げたタオルの写真をスマホで撮った。その写真はしばらく戒めのために見返していたので、今もクラウドのどこかに埋もれていると思う。

2025/11/09

Kohana

@kohana
エッセイとAuto fiction。 自分の言葉を取り戻すリハビリのために書いています。 少しでも楽しんでいただければ幸いです。