とろける歯

kohana
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公開:2025/11/6

歯の健康には自信がない。心の病気を患った時期、歯磨きを怠って大穴を空けたためである。病気が寛解し、穴に詰め物をしてセラミックや金属をかぶせても、虫歯が自体が治ることは決してないのだ。だから、心の病気の人を見かけると「歯だけはきちんと磨いてください‥‥」と遠くから念じている。

こうした理由で上の奥歯はほぼ金属で覆われている。この金属にも寿命があるようで、そろそろ替え時なのではないかと自分でも思っていた。そして、その交換は思いがけない形でやってきた。

もう2年以上前になるが、自分は引っ越しをした。そして普段食料品を買いに行く店とか、風邪をひいたときやインフルエンザワクチンのときにお世話になる主治医の先生とか、もちろん歯医者さんもすべて変わることになった。といっても引っ越し先は生まれ育った町なので、昔に戻っただけとも言える。ただ、病院の先生は代替わりしていたり、ご本人でもびっくりするほど歳を取っていたりした。

歯医者の先生も替わっていた。多分前の先生の息子さんだろう。

新しい先生はまずレントゲンを撮った。小さなクリニックだが3D式である。そして、昔かぶせたところの奥に陰のようなものがあることが判明した。

「ちょっと外してみて見ましょう」先生は言い、かなり苦労しながらのかぶせ物の一部を外した。それからあれこれやって、こうつぶやいた。

「‥‥根がとろけている」

ろは入れないで欲しかった、と自分は思った。

わかりやすく言うと、大穴の治療を一度はしたのだが、その後またその部分が虫歯になってしまい、痛みがなくて気づかずに進行して根まで達していたのだった。それまでも毎年2回定期検診を受けていたが、すべての歯のレントゲンを撮ることはなかった。そのため気づかなかったのだ。

その歯は数ヶ月かけて根管治療を行い、クラウンをかぶせた。特に不自由がないのだが、固いものを噛んだり体調が悪かったりすると違和感が出ることがある。そして自分は、キャベツの芯とか雑穀米とかおこげごはんといった固いものが好きである。昨日もお焦げの部分をうっかりクラウンの部分で噛んでしまい、今、まだその部分に軽い圧迫感がある。根が完全にだめになると抜歯になるため、今から恐ろしくて仕方がない。

とあれこれ書いたが、言いたかったのはどんな状態でもとにかく歯は磨いてください、ということだ。

2025/11/06

kohana

@kohana
エッセイとAuto fiction。 自分の言葉を取り戻すリハビリのために書いています。 少しでも楽しんでいただければ幸いです。