実は2日間まともに寝ていない。悩み事があったからだ。冷静に考えればたいした悩みではないのだが、少しでも早く解決したいと思い詰め、夜中に起き出して珈琲を淹れ、スケジュール帳やノートをひっくり返してあれこれ考えていた。AIにもお世話になった。
悩みで眠れなかったのか、珈琲で眠れなくなったのか、はっきりしない状況だが、悩みはとりあえずひと段落した。
冷めた珈琲を飲みながらネットショップを眺めていると、あるカレンダーが眼に留まった。どうしても欲しかったのに、どこを探しても品切れか法外な値のついていた、2026版のカレンダーだ。それが本来の価格で売っていた。もちろんすかさず注文した。
そのカレンダーは外国製で、レトロ風のSFイラストをあしらったものである。自分はファンタジーも好きだがSFも好きだ。両方の要素をもった作品には特別に愛着がある。子供の頃、何も知らずに手に取った『宇宙の孤児』には衝撃を受けたし、主人公の少女が妖精のふりをして未開の星の少年と接触する『異星から来た妖精』はボロボロになるまで読み返した。
異星の文明のイメージイラストや天文写真、そしてSFと関係があるのかどうかはわからないが、絶対零度という言葉も好きだ。子供の頃にある人から、温度にはそれ以上下がらない限界があって、それを絶対零度というのだと教わって、わくわくした。『比率』という言葉を覚えたのはロケットのイラストからである。我ながら変わった女子だったと思う。
変わった女子は、天体写真集とか父の書棚にあった科学の入門書とか、市立図書館の古い文庫のSFとFTを交互に読みながら大人になった。そんなふうだからSFイラストのカレンダーを飾りたがるのだ。
わずかな睡眠のあと目が覚めた自分は、買い換えの必要な財布や、以前から欲しいと思っていた本を探し始めた。できればマグカップも欲しかった。とあるブランドの、星のモチーフのマグカップが気になった。
しかし、買うと決めたのは全く別の、ブランドなんて関係ないカップだった。お湯を注ぐと黒いカップに色がついて、宇宙のイラストが浮かび上がるものである。そのカラフルな宇宙が自分の好みにぴったりだった。普通なら面白グッズ扱いなのだろうが、気に入ったのだから使ったっていいのだ。自分は宇宙と同じくらい、色が変わるものとか光るものが好きである。友人は「いや、そういうのは誰でも好きだよ」と言っていたが。
今はまあまあ気分も落ち着いて、カップとカレンダーとそのほか諸々の到着を待っている。
気になったのはショップのカップ説明文に
『彼氏、夫、男性へのプレゼント用』
とあったことだ。宇宙って男性の専売特許だったのだろうか。別にいいけどね。
2025/10/19
Kohana