月蝕を見た

kohana
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公開:2025/9/8

月蝕を見た。

昨晩はかなり早く寝た。せめて皆既月食の、完全に欠けたところだけでも見たかったからだ。でも、本当に起きられるとは思っていなかった。スマホで時間を確認しながらごろごろして、けっきょくアラームもセットせずに寝てしまった。

夜中トイレに起きた。もしやと思って西の窓から外を見ると、月が欠けはじめていた。満月の上半分がぼんやりと黒い。月蝕が始まってまだ間もない頃だった。

さっそく眼鏡と小さな双眼鏡を取り出した。月の欠けは思ったよりもゆっくりだ。首も手も痛くなるので、休み休み眺めていた。

最初のうちは三日月とあまり変わらない。小舟のような形の月である。月蝕は赤くなるというが、色もたいして赤くない。それがさらに欠けて糸のように細くなる。明るい部分がほとんど消えた頃、影になった部分が見えるようになった。

月が赤くなったなと感じたのはこの頃からだ。西の空にぼんやりとした赤いものがかかっている。眼鏡を掛けて見ると、確かに丸い。そして赤い。どこか禍々しい、黒いまだらのある赤だ。あの黒い部分はきっと海だと思った。下の部分には、元の満月の名残の金色の光が小さくともっていた。

不思議なのは、この時も双眼鏡を通してみると月は変わらず白っぽかったことだ。裸眼だと赤い。眼鏡でも赤い。双眼鏡だとその赤みが消えるのだ。そういえば満月の時も、双眼鏡だと光の金色は消えてしまう。

皆既月蝕の状態は長く続いた。時折窓から離れて休んだり、眼鏡と双眼鏡とで交互に眺めたり、昔の人は月蝕を見てどんなに恐ろしかっただろうかとか、SFアートみたいだとか考えながら眺めていた。

自分は子供の頃から、全然女子らしくない、大人っぽいSFアートイラストが好きで、図書館に置かれていた雑誌や画集をよく眺めていた。なので今も、たくさんの窓のある巨大な宇宙船とか、月面に並ぶドームとか、巨大な衛星や惑星がいくつも浮かぶような風景に憧れがある。満月や天体ショーが好きなのは、自分がそうしたイラストの世界に入り込んだ気持ちになれるからだ。

気がつくと双眼鏡を置いてうとうとしていた。

玄関のチャイムが鳴った音で目が覚めた。夢の中で聞いた音らしく、モニターには特に記録はない。

再び窓から外を見ると、月に光が戻りはじめていた。左斜め上の方から少しずつ明るくなってゆく。双眼鏡を覗くと、光が完全に消えたときは岩の塊のようだった月が、今はつるんとした球体に見える。

チコクレーターを見たら寝直そうと思った。

でも、眺めているうちに月はさらに傾き、完全な満月に戻る前に、ほのかな光を残して山の向こうに沈んでしまった。

2025/09/08

Kohana

@kohana
エッセイとAuto fiction。 自分の言葉を取り戻すリハビリのために書いています。 少しでも楽しんでいただければ幸いです。