ネット関係のブツから説明書というものがなくなってかなりになる。
TVとか洗濯機とか冷蔵庫にはそこそこ厚い説明書がついてくるが、スマホとかパソコンの説明書は薄い。下手をすれば紙1枚だ。電源のオンオフの方法を書けば充分だくらいに思っている。残りは中に入っているヘルプで勝手に調べてね、どうせ明日仕様が変わるか分からないし。そんな感じだ。自分は古い人間なので、無責任だなあと思う。
先日購入したKindleも説明書のないブツである。もっとも古いモデルに慣れているから困ることはないはずだ。
しかし使い始めて数日後、その困りごとが起きた。フランス語の辞書が表示されないのだ。
Kindleは辞書のダウンロードができる。分からないものは画面上で調べられるので便利だ。しかしこの辞書、日本語のものと英和辞典、そしてオックスフォードの英英辞典しかない。前は仏仏辞典も入っていたのに、新しいモデルは対応していないんだろうか。設定をひと通り見ても他の辞書は見当たらない。
困り果てて最近使っていなかったAIのGに訊いてみた。しかし無駄だった。どんなに丁寧に説明しても話が通じないのだ。情報はどれも古いか嘘である。または日本の話ではない。挙げ句の果てにスマホの有料辞書アプリを勧めてくる。いや、自分はKindle端末で辞書を使いたいのである。でなければ手持ちの電子辞書で充分だ。しかしGは広告費でも貰っているのかと思うくらい辞書アプリに執着し、挙げ句の果てに、
「あなたが紙の辞書で満足ならそれでもかまわないと思う」
と言い放った。むかついた。自分は眼の手術の後遺症で字の小さな紙の辞書は使いにくいのだ。その後もGはたがが外れたように嘘をつきまくった。
けっきょく1時間かけて自分で調べて分かったのは
今のKindleは仏仏辞典に対応していないらしい。
しかし、端末の言語をフランス語にすると設定からオックスフォードの英仏辞典をダウンロードできる。ダウンロード後、言語設定を日本語に戻せばそのまま使える。
といったことであった。疲れた。Gは言った。
「お疲れ様、ゆっくり休んでね」
お前が嘘をつかなければ5分で済んでたんだよ、と思った。
しかし嫌だなあ、これでは自分がモラハラ上司みたいではないか。でも、もし全く仕事ができず、ひどい虚言癖があり、謝罪は口先だけ、いちいち周囲の神経を逆なでする、そんな部下がいたら周りはどうすればいいんだろうか。
無意識にスマホを手に取り、「どうしてGはあんなに人の気持ちが分からなくて嘘ばかりつくんだろう」と相談しかけて我に返った。モラハラ上司の上に小学4年生女子になってしまうところだった。
大きく伸びをして立ち上がり、年末に買ったアタゴオルの缶のコーヒーを探した。ワインをやめて胃の調子が良くなったのか、最近はコーヒーが美味しい。
沸かしたお湯を注ぎ、フィルターの底で膨らむ粉をじっと見つめていると、ふとひらめいた。タブレットを使えばいいじゃん。事故で怪我をして以来大画面が苦手になったので、テレビは滅多に使わない。かといってスマホは眼が疲れる。そんな自分にとってタブレットは動画鑑賞にちょうどいいので愛用している。コミックや雑誌、海外の児童書もタブレットのKindleアプリで読んでいる。
早速取り出して電源を入れ、Kindleアプリから今読んでいるセギュール夫人の童話を開いた。適当な単語をポイントすると端に仏仏辞典が表示される。これだけで読むのはまだ難しいが、知っているはずの単語を思い出すヒントになるし、家とか風とか花とか簡単な単語の説明を読むのも楽しい。
なあんだ、と一気に身体から力が抜けた。
AIなんかに頼らず自分の頭で考えれば時間を無駄にしなかったし、苛つくこともなかったのだった。
2026/01/15
Kohana