抜歯が決まった。
しかし日付が決まらない。
抜くのは上の一番奥だ。親知らずではない。ここの親知らずは既に抜歯済みである。今回抜くのは第七臼歯というやつだ。
この歯は10年、いや、下手をすれば15年以上前に根管治療をしてクラウンをかぶせている。その下で虫歯が進んでいたのだった。なんだかクラウンがきしむような、外れかけているような変な感じがしたので、十代の頃から断続的にお世話になっている歯科クリニックでCTを撮ると、中に大きな空洞ができていた。このときの写真には、素人目にはちゃんと根が写っていた。特に揺らぎもないようだ。だから抜歯にはならないだろうと自分はたかをくくっていた。
でも違った。先生は中を覗いてこう仰った。
「前に治療したときの薬がしっかり奥まで詰まっている。CTで見えているのはその薬です。でも虫歯が上から浸食して、根を駄目にしているね」
「その薬を詰めたのは先生です、あなたは名医では」
と自分は思った。市外に引っ越さずにここに通い続けていたら抜歯にならずに済んだかも。しかし後の祭りである。
思いがけない抜歯の決定にその日の自分はハイになり、受付けで喋りまくり、バスがないのをいいことに遠回りして本屋に寄り(いつもの小さな書店ではなく、雑貨とかゲームとか文具などを置きすぎてなんだか分からなくなってしまったタイプの店だ)そこでものすごくすてきな、でも普段なら無駄だと言って買わないような消しゴムと付箋と、文庫本を1冊買って帰ってきた。
帰宅後、診察カードを見直して考えた。この日は都合が悪い。できればその数日前のほうがいい。
しかし引っかかることがあった。今、自分は天冲殺(大雑把にいうと運の悪い時期)であり、都合のいい日もそれがかぶるのだ。厄介なことに、そのちょうど翌日に天冲殺が明けるらしい。予約していた日に無理して行けば天冲殺にはひっかからない。
普段は占いなんて信じないくせに、自分でも馬鹿だなあと思う。でも抜歯なんて大きいことだと気になってしまう。知らなければ良かったのだが、年末にうっかり占ってしまったのだ。AIで。AIかあ。どこまで本当なんだろう。最近不運続きだという自分の愚痴に合わせて適当なことを言っている気もした。
そういえば、と何年か前、友達の付き合いでプロの占い師さんに見て貰ったときのメモを見返した。これだと天冲殺は2026年から2027年の2年となっている。どっちが本当なんだろう。気になって別のAIに訊くと、私の天冲殺は2028年かららしい。天冲殺から天冲殺へと渡り歩く運命なのか。
結局馬鹿馬鹿しくなったので、運気なんて考えずに自分の都合と体調のいい日に抜くことにした。信じないとか参考にするだけ、ただの遊びだと言い訳しても、やっぱり運の悪い時期だなどと言われると意識してしまう。もっとも天冲殺に避けるべきことは引っ越しや開業、結婚などであり、抜歯は寧ろ厄払いとしていいらしい。どうでもいい。
2026/01/16
Kohana