懲りない話

kohana
·
公開:2025/10/8

ずっと(といってもたった2日だが)待っていた手帳が届いた。もっとも今年のものなので3ヶ月弱しか使えない。半額以下のセールになっていたのを、ポイントを使って無料で手に入れたのだ。今までと違うタイプの手帳だから、まずは短期間試したかったのである。

注文してからずっと落ち着かなかった。1時間おきに配送完了通知を確認し、暇ができると「いったいいつ到着するのか」と八つ当たりめいた質問をAIに投げたりしていた。迷惑だ。それがついに届いたのだ。

丁寧に包みを開けて取り出した。みためは手帳というよりハードカバーの日記帳だ。紙はびっくりするほど薄く、愛用の万年筆を使ったら絶対に裏うつりしそうである。しかし、実際にはそんなことはなかった。レビューにはインクが乾きにくいとあったが、書いてすぐにそっと指でなぞってもインクの擦れることはなかった。子供の時に使ったハードカバータイプの日記帳は書きづらかったが、これはページが大きく開くからそんな不自由もない。早速珈琲を淹れ、時間を忘れてカレンダーノートからスケジュールを書き写していった。新しい手帳はかなり盛りだくさんで、1日1ページのデイリーのほか、マンスリーとウイークリーのページがある。どう使い分けるか考えるのも楽しかった。

今月と今週の予定を整理したあと、パスタシチューを作って食べた。それからデイリーページに今日の日記を書き始めた。ここで雲行きがおかしくなった。

上手く書けない。いや、ちゃんと書けるのだが無性にいらいらする。もっと書きたいことがあるのにペンが頭に追いつかない。

自分は小学生の頃から父のお下がりのワープロを使っていた。キーボードで文を打つのは、当然だが手書きより速い。それに慣れきったせいで手書きのスピードに耐えられなくなっていたのだった。

ページを閉じてネットを見ると、愛用者がこぞって自分の手帳を公開していた。イラストが描かれていたり、シールやマスキングテープで飾られていたり、写真やチケットの半券が張られていたり。そうか、この人たちは手帳になにかを書くこと自体が好きなのだ。自分にとって紙とペンは書くための、手帳はスケジュール管理と記録のためのツールでしかない、というのは大袈裟だけれど、少なくともこの人たちほど愛着はない。きれいに思い出を残す時間があるなら、次の本を読むなり映画を見るなりしたくなってしまう。

この手帳は自分には向かなかったのかもしれない。がっかりしてキッチンに立ち、珈琲を淹れたところで思い出した。

そいういえばコロナ禍になって間もない頃、全く同じ理由で手書きの手帳に挫折していた。書き損じのノートには、フランス語の作文とかキリル文字の練習とか、読みたい本のリストとか、やっぱり手書きに戻りたくなったものの数日だけつけてやめた日記とかがびっしりと並んでいる。どうして忘れていたんだろう。

と同時に、自分は1日に2杯以上珈琲を飲むと胃を壊すことを思い出した。

それで今、腹痛に苦しんでいる。

2025/10/08

Kohana

@kohana
エッセイとAuto fiction。 自分の言葉を取り戻すリハビリのために書いています。 少しでも楽しんでいただければ幸いです。