京都ロームシアターにて。この会場へは東京から何度か行こうとしたことがあるものの、2020年にはダムタイプの公演がコロナで中止になり、2022年にはパパイオアヌーが日程変更になるなど、振られっぱなしでなかなか縁のない会場だった。
上演が始まると同時に暗転する。ほとんど何も見えない暗闇で驚く。明るくなったセットの様子は何千年後かの地球か、それかどこか別の星のようだ。
巨大な半円状のアーチに載ったライトが、ステージの上をゆっくりと行ったり来たりする。一見太陽のようではあるが、東から西、西から東へ動く様子が非現実味を与えて、舞台上の世界に光を投げかけるだけの存在になる。テーブルや脚立が光を受けて線状の影を作る。影の線はライトによってゆっくりと回転し、まさに「幾何学的な」模様を傾斜した舞台に描く。
一方で、演者によるパフォーマンスは幾何学的な意味での tangent ではなく、ものに接する、触れるという動作に焦点を当てている。tangent の語源はラテン語の tangere で、触れるという意味だそうだ。雑貨とテーブル、紙とペン、テーブルと鉄の棒といった物体同士が触れ合うエネルギーが、拡声された摩擦音や火花のような光に変換されて、私たちに示される。音や光は長い余韻になって残る... とりわけ、火花と長時間露光の効果によってスクリーンに描かれた模様の美しさには、思わず息を呑んだ。
幾何学の方の tangent 担当?である舞台装置に話を戻す。暗転を繰り返したのち、球体のついた巨大な振り子が登場する。回転する振り子はある意味催眠術の5円玉のようで、これが静かな舞台もあいまって強烈な眠気を誘うのだが、半覚醒の状態で凝視し続けると、ステージが隆起したり傾いたりするような不思議な錯覚に陥る。
後ろのスクリーンにはどこかの街並みや風景が映し出されている。振り子の回転が速くなるにつれて、だんだん映像と音響の圧力が増してくる。球体に普遍的な記憶やイメージが内包されており、回転によってそれらが発露されていると捉えるのは SF 的な見方が過ぎるか。でもダムタイプ2020ではアカシックレコードとか言ってたしな。演者が球体に触れて回転を止めると再び暗転。
「ロームシアターに新しいレパートリーを作る」というコンセプトもあってか、以前に見た ST / LL に比べるとセットや上映時間もコンパクトであった。それでも、日常的なアイテムを使った舞台セットや、カメラ映像による別視点の提示など、独自の演出は本作でも健在で、相変わらず素晴らしかった。