FANTASTICS LIVE TOUR 2024 "INTERSTELLATIC FANTASTIC"0225代々木

kokonoe
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FANTASTICS LIVE TOUR 2024 "INTERSTELLATIC FANTASTIC"2月25日日曜日、代々木第一体育館での公演を観た。拝見後2日目にしてほとんど忘れているのでただの作り話を書く。また、私はオペラグラスを使わないことと映像にうつるメンバーたちを見ずに肉眼だけで見ることにこだわるので、誰くんが誰くんに何をしたという記録はひとつもない。

会場は緑色の光につつまれていて、ぷよぷよとした感触の環境音楽が流れていた。どこかの水族館のくらげ展示室や深海展示室の演出みたいな浮遊感のある音で、おそらく海遊館がこんなかんじだった気がする。確か此処で「そらの話」をすると聞いていたが、まるで今から「海の話」が始まるような気がした。なぜか上野の国立科学博物館に来たようなかんじもあった。代々木第一体育館の宙にはFのマークの宇宙船が浮いている。それは隕石っぽくも見える。私はスタンドだったのでFのしるしの宇宙船が目の前に見える席だった。バンドセットも準備されていて、ムードがイキイキしていてステージの空気がすでに汗をかいているようだ。間近でticketbookの爆音の宣伝が鳴るのでとても驚いたりしたし、うら若い踊り手たちによる演舞をけんぶつした。

SNSで突然発表された一部舞台映像を見ると、タイガースカラーの宇宙服を纏ったFANTASTICSのメンバーがひとりずつゴーグルをはずして彼らという存在をお客に証明してくれるといったシーンがあった。私はそのさぞ強い物語性があるだろうプロローグを大変楽しみにしていたのだが、この日はそうしたオーヴァーチュアがなかった。なのでまったく個人的な話として導入自体はあれ?というかんじはあった。彼らはピャっとステージにちらばってしまった。頭の曲はSTARBOYSで、このうたにはパフォーマンスのチャンスごとに澤本夏輝さんと堀夏喜さんが自由に踊ってかまわないパッセージが用意されている。しかしこのたびのライブ公演では、そのフリーパートがなかった。ふたりのフリースタイルの踊りを観るのを私は毎度とても楽しみにしているのだが、この旅においてはSTARBOYSに違う物語が用意されていた。ということは今後はもう、中島くんと八木くんの歌にあわせて堀と澤本それぞれふたりがその場で瞬間的に創作する踊りを観られる機会はないのだろうか。そのかわり、ついにみしらぬ惑星におりたった青年たちが自分たちの足で思い思いにその世界の感触を確かめている、といったような振りがあった。つまり、水や空気や森や世界など自分たちの味方として当たり前にいてくれるものは何もない宇宙や惑星にやってきたFANTASTICSが、それでも踊りによって地平や銀河を切り開いていくといったようなことをするのだろうかとおもった。そうすると宇宙服をイメージした衣装がやがて雷鳴そのもののように見えてきて、つまり彼らは自然や現象、宇宙や天文そのものになろうとしているのだろうか。大きすぎて見えているようで見えないものやそこにあるけど目には見えないものを踊ろう、表現しようとしているのか?などと予測するにいたった。

私は事前にセットリストを知っておくタイプなのだが、曲目を伺った際に、ファンクラブのイベントでとったアンケートを効率よく参照してまとまりよく構成したのかな?と思った。

しかし実際に拝見すると、話はまるでちがっていた。

映像も重要な存在であり、それはメンバーのひとりみたいなレベルで機能していて、映像に登場するキャラが巧みに彼らの宇宙に誘い込むのでまるでライブを通り越してアトラクションのようだった。以前今市さんの東京ガーデンシアターでのソロコンサートに伺ったとき、とても楽しかったのだが、遠くの席からスクリーンの映像をただ見ているだけなら、ライブビューイングと変わらないかもなあとおもった。なので私はあれ以降スクリーンにご本人のおすがたがうつってもいっさい見ずに肉眼で見える指先くらいの大きさの彼らを必死で見つめることにこだわってるから、映像を見ることを忘れがちなのだが、今回はスクリーンにながれる映像も重要なんだという事実にここら辺で気づいた。そしてこういう映像演出も、気恥ずかしいお遊びや幼さや付き合わなければならない遊戯のようには一切感じなかった。重要なストーリーテラーで、メカのキャラクターが語ろうとするFANTASTICSのヒストリーに非常に心地よくのせて頂けた。歌は彼らの歴史で、ファンタたちがあらたな武器とした「Tell Me」の生バンドアレンジは今までとまた違ったテンポで楽しめた。スタンドからだったので、主に隊列を楽しむこととなる。真横から切り取られるTell Meも新鮮だ。そして諸々の得意曲を彼らがおよそ雷鳴のように踊りきれば、こちらとしては狂おしいほどの震えに襲われ、どうか一生幸福に踊ってくれ、どうかただ踊り続けてくれと変容する私自身の意識のなかでただ祈るほかないのだが、いつもであれば祈りで済むものが、それでは済まず、ここからがFANTASTICSのさらなる刮目すべき時間であった。

映像は、宇宙とされているはずの場所から、思わぬ世界へ客をみちびいていた。雷のような宇宙服から、彼らは水の妖精みたいな衣装に変わる。踊る音楽、うたううた自体は、いつもの彼らのもちものである。そして彼らは自分たちがさずかった歌を大胆に「使い」始めた。自分たちのもちものを、うたう、踊る以外に、「使う」やりかたもあるんだなと思った。

「使い手」といえば、澤本夏輝である。

澤本さんが、長く伸びた軌道、宙のみちの先で、宇宙船をふり仰ぎ、おおよそ祈祷のような舞に入り始めたので、私は今から澤本さんは神話の中に生きる水棲動物でも降ろすつもりの踊りを踊りだすのか?と思った。あるいは海の神様と、踊ることに依って語らい始めたのか?これはつまり、それがゆるされるのは澤本さんだけ、みたいなことですか?神様と踊りで対話できるのは澤本さんだけということなんです?なんなら澤本さん自身がジュゴンか何かであるっていう話が始まるんです?などと巡らせた。もっともプレアニミズムを見いだすには、澤本さんの身体も精神も清潔なドスがウィットとタフさとクラシカルさを調味料として独特のおだやかな荒々しさたっぷりに効いているので、彼の踊りには現実しかない。そんな、現実を知り抜く澤本さんが、この世界をみちびくように踊りだしたとき、私はこの場がまるで「龍宮」みたいだなと抱いた。ここは海だったかと思った。FANTASTICSは海の中に花を咲かせていたし、四季を呼んでいた。すべて自分たちの歌を「使って」起こす奇跡。見えないものは、踊れば見えてくる。海のなかでの呼吸のしかたも踊ればわかってくる。ブラウスみたいな清潔な衣装がゆれて、凶暴な踊りをいくらでも踊れる青年たちは、この場では水を統べるように踊っている。怖い踊りもいくらでも踊れる彼らは「It's all good」において優しさすらみせる。もちろんFANTASTICSにおいてこころやさしい踊りはけしてめずらしいものではないが、やさしさがめずらしいひとはいる。

堀くんである。

堀夏喜。堀くんは、特殊効果がドカンと鳴っても顔色ひとつかえず、平然とすたすた歩いて自分の場所へゆく。彼はいつもどれだけ踊っても天花粉をはたいたようにまっしろだった。他の人たちはみんな人間の色をしているが、堀くんは植物のような色をしている。そしてろくろくびみたいに首がにゅっと伸びている。澄んでいて動じない。まあ肉眼で見える堀くんしか見ていないので、笑ったり驚いたりよろこんだりしているんだろうけども、いわば無常すらにじむ剛健な背中と丸太のよーな腕とドライな手でお客にそこそこの愛想をおくり、そのお客のさきに誰や何を見てるんですと思った。そこにいる女の子たちが堀くんには何色に見えているのか聞きたい。

踊りで指揮をとるのが世界さんで踊ることを神様に赦されている澤本さんなら、やっぱり勇敢なさまでいつも先頭にいるのは、中島颯太さんである。中島くんがピアノを弾いて、うたっていた。今市さんと同じくらいすてきだなと思った。なにせ大人っぽくなっていた。中島くんは辛抱強くて頑強で、質量はずっと控えめなのに強く、常識とインテリジェンスがめきめき育っている。そして中島くんは、D.U.N.Kでスカイハイが言っていたことと酷似したことを話していた。これまるっと同じ話をどこかで聞いたぞどこだっけかと思ったが、D.U.N.Kだった。話のなかみは新曲の歌詞や中島くんが取り組んでいることに即していることは知ってるのだが、まったく同じことをこのまえスカイハイが言うてたな、と、思っただけである。そしてアリーナが近づいてくるとファンタのメンバーの笑顔の「質」が変わってくるなあと常々思ってるんだが、八木勇征さんは今回にかぎって、いつもと同じ顔で笑い続けているなと思った。八木くんのことがわかるなんて到底思わないが、あの背中をみていると、そばに仲間全員がついててくれたらいつでも大丈夫なんじゃないかと思った。必ずついていてあげたほうがいいと思うけど。それも全員で。

宙に轟くいかづちそのものを踊り、海や水のなかで生きることという話を踊ってくれるとなると、次に行く場所は彼らが人間として、魂からの叫びとして踊れる場所だろう。そこは、もとのほしじゃなくて、パフォーマーのみんながもっと自分になれてもっと踊れる地の底の国のように思えた。パフォーマーが集うダンストラックは、そんなふうに自由で不敵で、荒々しい世界に飛んで行われていた。

ということで、もてる歌を歌う世界の創造を繰り返すこと、それこそが宇宙であるという物語を、FANTASTICSは彼らの声と身体をもって私たちに教えてくれたわけだが、持てる音楽、持てるもの、もてる歌、協力してくれるスタッフ、人材、そして己たちの経験と身体と踊りと技能をもちよって、ファンタはよくこんなものを「書いた」なあと思った。つくる、踊る、パフォーマンスをする、ライブをするというより、彼らはこれほどのものをよく「書けた」なと思った。

澤本さんが海の神様と語らうおどりを踊れるなら、ダンストラックの世界さんは、地を割るようだった。踊ることによって大地を割ってこの星を見つけたのかなと思った。世界さんは噴火のように踊っていた。佐藤さんは、私の近所の耳鼻科の待合室にああいう服を着ていつも撥ねてるこどもがいるんだが赤い服をきて撥ねている佐藤さんをみるたびにああいったこどもを思い出す。瀬口さんは爆発的にかっこよく、いつもだれかにやさしくしている。

Choo Choo TRAINを歌うと、強めにかかっていたまぼろしがとけ、ありのままの彼らが戻ってくる。この音楽でFANTASTICSは普通の青年たちにもどる。そして「ギリギリRide it out」でひとぬぎすればさらに素直なすがたの青年たちがあらわれる。衣装をぬぐと当然みえるものは「背中」であり、彼らはぬいでただ突っ立つだけではなく、あたりまえだがしっかりと踊ってくれる。つまりこの衣類を脱ぐ時間は、彼らが自分の身体をどう使っているかお客に教えてくれるタイミングなのだ。堀くんの背中はやっぱりあまり大きくしゃべることはない。

そして背中含め自在に自分自身の身体を使える者たちは、さすがである。このタイミングで、彼らの技術の「種明かし」をすることは、ない。おそらく、隠しているものを今後も教えてくれないだろう。つまり堀くんは意外にも、教えてくれる側の人間なのである。

最後、木村くんが脱ぎ捨てた衣装が高々と宙に投げ上げられているのを見た。そして、木村くんのふくがどこにおちるんだろうとアリーナのあたりを目で追っていれば、「INTERSTELLATIC FANTASTIC」という話が終わっていた。

なのでこの日の締めは、私にとっては「木村くんがぬいだふく」であった。私はいつも堀研究澤本研究そしてこのふたりの比較けんきゅうを肉眼でおこなうことにいそがしく、(このけんきゅうをしていると、瀬口さんも入ってくる)あいくるしい木村くんを全然見られていない。ただいつもおもうのは、木村くんはもっとやれるよな、木村くんにもっとやらせてもいいよな、ということだ。

私の隣にすわっていた少女が、いっしょうけんめいに、ファンタファンタとおらびたおしていた。するとファンタが出てきた。このこがファンタを呼んだとおもった。客席のあちこちにあの少女がいる。ファンタはあのこに呼ばれて出てくるし、呼ばれないと出てこれないし何もできない。アンコールとなると、堀くんは、身体を、極めて効率よく使い始める。踊りにおいて使うパーツをしぼって、身体のそれいがいの部分はしっかり休ませている。

おわってみれば、STARBOYS、つまりファンタは星の子というわけではなかった。彼らは星そのもの、世界そのものを踊っていたのだ。そして、おまえたちは誰で、どこから来てどこへゆくのか。その問いに現時点でたからかに回答したコンサートだと思った。そのはずなのだが、私はずっとあなたたちはいったいだれだったのですかという思いにも、つきまとわれている。また、何かを成し遂げてしまうことへの懸念というわけではないが、雷や無重力や水や宇宙、この世界のことををうたえ踊れ舞え書けといわれたらうたえて踊れて舞えて書ける人たちを私はそこそこいろんな世界で何人か見てきたが、おおよそその半分が幸福で、残り半分はあまり幸せになってない。忌憚なく言えば、加害者になったケースもある。けど、もちろん心配ないとも思っている。何かを降ろすタイプの踊りも、あれができるひとはなかなかその後の人生がまっぷたつに割れる気がするが、もちろんおそらく大丈夫だろう。あとは再三気遣い再三口にする、自分の表現より客の人生や客のくらし、客がわざわざここに訪れていることを気遣うこともだ。あの気遣いを表出し、それを行動に起こせてしまう人も、その後なかなかのことになるケースがある。もちろん一部だし、自分も他も幸福にして幸福になる人もたくさんいるし多いから、おそらく心配はない。

そしてそれができる人たちに宿るもの、というか人間が本来もっているそれには、とある名前がついているけど、たった一度の鑑賞でそこまで言ってのけてしまうのはさすがにおおげさすぎるので書かない。

けれどこの日私はFANTASTICSにそれが宿っているのがみえたし、青年たちが握りしめているそれを見つけた気がした。気がしただけです。それと、Astor9だなーと思ったりしました。Astor9もこんなことをやってるんじゃないでしょうか。

@kokonoe
口から出まかせを言っているブログ