2022年11月14日
その一週間後、ツアーは広島に会場を移した。ハイローが終わったタイミングで全国各地にホールツアーへ行く。まんまとLDHのマーケティングどおりにFANTASTICSのファンになった私は、リセールでチケットをとった。そして松山公演すぐ後の広島公演へ出かけた。広島だとこのように思いつきでふらっと行けるので助かる。これが関西や関東だと飛行機代が外出を阻害する。ちなみにFANTASTICSは、松山公演のあと八幡浜からフェリーで大分に移動していた。堀夏喜さんが佐田岬を撮っていたのでわかった。しかもフェリー泊をしていた。いまどき歌舞伎の巡業でもそんな移動はしませんよ。とはいえ確かに愛媛から大分へ即移動となるとそれしかない。FANTASTICSは過酷なホールツアーをこなしている。大衆演劇の劇団よりずっとハードだ。佐田岬からフェリーに乗ってフェリー泊をしていた人たちが、2023年12月現在、いまやアリーナを埋め、フェスに出たり、数多の最先端アーティストが集うドームでのイベントで顔を売っていたりするのである。
先日のFANTASTICS松山公演より私は、人物をキャラに落とし込んだグッズを持ち歩き外出先の風景や食べたものといっしょに写真を撮影する遊びを覚えた。木村慧人さんのグッズのケイビーポーチや、堀夏喜さんのホリパカのキーホルダーは、いつもかならずかばんにいれて持ち歩いている。
FANTASTICS LIVE TOUR 2022”FAN FAN STEP”広島 11.14 リーデンローズふくやま
あの曲がよかった、誰くんが誰くんと何をしていたというレビューはひとつもありません。
座席は19列目あたりだったような気がしている。
この夜はとても楽しかった。終わったあともずっと満たされていて、だいすきだと思った。ファンタがすきだ、だいっすきだと思った。単純な満たされた感じやシンプルな楽しさであれば、この公演の思い出もまたLDHコンサート鑑賞歴のなかでは随一であった。彼らにえぐられた傷はふしぎと治りつつあった。それでも残る寂しさをぎゅっとこらえながら、この人たちをずっと好きでいたい、ずっと観させていただきたいと思った。そのままFANTASTICSファンクラブに堀夏喜で登録して入った。
木村慧人さんがしばしば、自身の愛らしさに自覚的であるという事実を表現したギャグを披露する。今日もそうした行動に出ていたのだが、私の周りの人たちはそのある種の唐突さをうけて一様に首をかしげ、「うーん……」とうなりながら、深いため息をついていた。するとその後少し遅れて、離れた席の木村さんファンの方が「キャ、キャー!か、かわいい!」と応援をおくっていた。とても優しいファンたちだなと思った。
これはちょっと回想形式で書いていて、またこの頃は勉強不足だったので、澤本さんの踊りの意義深さすらまだ把握できてないころであり、あまりこれ以上が思い出せない。堀さんの踊りは相変わらず力みを抜かれていて洗練されていて、膝がやわらかく、公演が最後の方になると途端に振り付けを簡略化するなと思った。なんという要領だと思った。なんでも100%という時代ではない。大衆演劇を越えるハードなツアーにおいて、大切なのはケガをしないことだ。
そういえばこのツアーでは、FANTASTICSのメンバーが公演地のマイナー駅に出現して普段着のまま飄々とした風情で写真を撮るというギャグをやっていた。広島公演で選ばれた駅は備後本庄駅である。広島は多少わかるので(知人が備後庄原にすんでいる)、備後本庄で撮る面白さはすごくわかる。翻って、松山ではどこで撮っていたかというと、市駅であった。市駅は松山の中心駅だ。駅構えは地味かもしれないが、おもしろマイナー駅ではないのである。なので、このギャグを松山でやるなら、予讃線の「粟井駅」「柳原駅」とかのほうが、わけがわからなくて面白かったんじゃないかと思っている。三津浜だと今や立派な観光地だし。伊予鉄の福音寺駅とかでも、そんなにおもしろくないし…。白濱亜嵐さんあわせなら北久米もありかもしれないが、やっぱりそんなに面白くない。なので私は松山公演では、北条らへんまでいって、そこで撮って欲しかったなと思う。ちょっと遠いけど。
疾風のような少年たちにえぐりとられた傷は確かに治った。しかし今日も私は、FANTASTICSはなんだか寂しいと思った。そして今日も、彼らは世界で一番美しくて、世界で一番普通だと思った。