5月の映画の会は『リー・ミラー 彼女の瞳が映す世界』を紹介した。普段はある程度伝える内容を文章にまとめるのだが、映画館で観終わったあとすぐ移動し映画の会に向かったのでまとめる時間がなかった。だけど、興奮のままに観た内容や感想を伝えられたのは良かったと思う。すごく良い映画だった。

『リー・ミラー 彼女の瞳が映す世界』は第二次世界大戦のヨーロッパ戦線を撮影した実在の報道写真家の伝記的な映画。彼女の写真アーカイブから物語を組み立てていったらしい。この映画のポスター写真は、彼女の代表作となった、ヒトラーの自宅のバスルームでリーが入浴する場面の写真を元として、同じ構図で撮影している。リー・ミラーはアメリカ生まれで、雑誌VOGUEのモデルを務めたあと、撮る側になりたいと前衛写真家マン・レイに学び、自身のスタジオを開いた。マン・レイの弟子かつミューズだったとのこと。映画はこうした前半生をすべて割愛し、第二次世界大戦から、リーがいかにして戦場ジャーナリストとなっていったかを中心に描いている。
主演はケイト・ウィンスレット。『タイタニック』のローズが特に有名だと思うが、この映画の始まりも歳を重ねた本人が自らの体験を何者かに語り始めるという入り方をしていた。意識しているのかは分からないし、伝記的映画ってこういう始まり方しがちだよねと思った。だが、『リー・ミラー 彼女の瞳が映す世界』ではこの始まり方が終わり方に繋がっており、ただの彼女の伝記映画にしていなかったのが良かった。(なので伝記的映画と書いています)
第二次世界大戦が始まったとき、リーはイギリスに住んでいた。戦争の中で無力感を感じ、自分にできることはないかと模索をする。英国版VOGUEの戦場ジャーナリストとして戦時下にいる人々を撮影を行った。もっと軍隊の内部に入りたいが、女性だからと入れない。ここで雑誌ライフの戦場ジャーナリストのデイビット・シャーマンと出会いチームを組む。彼とリーは戦時下のなかお互いに支え合い仕事を行うパートナーとなる。リーには取材の許可がなかなかおりなかったが、イギリスではなく母国のアメリカに申請して取材パスポートを得ることができた。それでも、女性だからと最初は前線には出られず、キャンプ内で傷病兵や女性の補給隊員の姿を撮影した。前線へと願った結果、フランスのサン・マロに派遣された。命の危機にさらされながら撮影を続ける。ここの戦場のシーンが迫力があった。武器を持たずカメラを持って銃撃戦から逃げるリーはあまりにも無防備で本当に怖かった。ドイツ兵は撤退するが、その後ドイツ兵と寝た女性たちが裏切り者として糾弾され、町の人たちは彼女たちの髪を刈り丸坊主にした。たしかNHKの映像の世紀で同じような場面の映像を見たことあるが、行き場のない罪と怒りがすべてその女性たち向いていて凄惨な映像、リーはその光景も撮影していた。また、俺たちは戦ったんだから、との言い分で1人の女性をレイプしようとしてる兵士に遭遇しリーは必死に止める。この場面はとくに暗い気持ちになる。
ナチス占領からパリが解放され、意気揚々とパリに入るリーとディビット。パリが解放されたことに外部の人々は喜ぶが、残っているパリの人々は暗い顔をしていた。リーは旧友と再会するが彼女は痩せ細っていて、生きる気力を無くしてるようだった。息子は撃ち殺され、夫は収容所へ、彼女自身も収容所にいたが戻ってきたとのこと。パリからはいつのまにか消えた人が大勢いることを知り、リーは消えた人がどこに行ったのかこの目で見るために、連合軍の東進に従って、ドイツへ入る。ユダヤ人の強制収容所で、折り重なる何千人もの遺体や、おそらくレイプされたであろう幼い子どもを目の当たりにし撮影していく。
この映画はリーから見た戦争を描いた映画なんだと思った。戦争を描いた作品は誰目線で作るかによって見え方が変わる。あまり〇〇ならではの目線(例えば女性ならでは)とかの表現は好きではないのだが、確かにあるのではと思った。同じ光景や映像を見ていたとしても持つ感想は人によって様々だ。見る人の経験の積み重ねや知識、行動で捉え方は大きく変わるのではないかと思う。リーは「消えた人」も、戦争が生み出した見えない傷も撮影していった。観ているこちらも傷心するようなショッキングな場面が続くが興味があるならぜひ観てほしい。本当に戦争って何なんでしょう。こんなにも「消えた人」がいるのに一体誰が幸福になるのか、何が生まれるのか。罪の行き着く先はどこに向かうんだろう、そう感じる映画でした。