前回の投稿から約2ヶ月、やはり自分用メモと外向きの文章は違い、なかなか気力が湧かなかった。4月中の本・映画をおすすめする会にはそれぞれ参加しており、本の会では『駈込み訴え(乙女の本棚シリーズ)』太宰治(著)ホノジロトヲジ(著)、映画の会では『教皇選挙』を紹介した。
5月の本をおすすめする会では、向田邦子さんの『思い出トランプ』を紹介しようと思っている。思い出トランプは13作品からなる短編集で1980年に発表。そのうち3作品が直木賞を受賞している。向田邦子さんは小説・エッセイ・ドラマ脚本と多才な活躍をされたが、1981年に台湾での飛行機事故で51歳で亡くなっている。(脚本ドラマが特に有名なようだが、こちらは観たことはない)
私は高校生のころにこの本を購入したが、その当時は正直さっぱりだった。それもそのはずで、中年夫婦関係をテーマにした作品が多い。書かれた時代も伴って、なかなか理解は難しかった。しかし妙に心に残る作品で、大学生、社会人、今…と長い間たびたび読み直す本だ。
想像を膨らます行間がある言葉選びをしている。どういった感情を持っているのかも直接的には表現せず、状況とか表情や行動の描写で想像させている。珍しくない日常の中にある些細な揺れや感情のぶれを丁寧に掬っている。向田邦子さんの描く日常からは、生きている中でふと感じる虚しさや不気味さが感じられる。
短編のうち『かわうそ』『だらだら坂』『犬小屋』が好きだ。『かわうそ』は中年夫婦を日常を描いた話で、夫からの目線で話は進む。夫は脳卒中で倒れたことがあり後遺症で痺れが残っている。定年間近だかおそらく休職している。命は助かったものの、病魔は確実に夫の体を蝕んでおり、「頭の中で地虫が鳴いている」などとたびたび表現されている。対して妻は夫が倒れてからメキメキ活発になる。倒れた夫を支える妻という役割を得て、増して妻然としようとしている。そんな中、妻は家の庭を売り、マンションを建てようかと不動産屋などに相談し、夫は反対しているのだが、妻の方が活発的になっているので話をどんどん進めようとしている。しかも、今の状況を楽しんでいるかのように。萎れていく夫とその生命力を吸い取っていくかのような妻。妻の生命力や残忍さ、子どもっぽさが動物のかわうその習慣に重ねられている。この説明だけを書くと、妻怖いという感想に集約されてしまいそうだが、たった十数ページなのに些細な心の動きが表現されていて想像を膨らますことができ、鷲掴みにされた作品だ。
他の作品もそれぞれ「人」とその関係が、いろんな状況下で描かれている。書(描)かれた時代もあり、読んでいるとノスタルジックな気持ちになる。その時代は生きていないが、そう感じられるくらい表現が巧みなのだと思う。紹介するにあたり思い出トランプを読み直し、やはり面白い!となったので、だいぶ前に購入し積読してる『向田邦子ベスト・エッセイ』もこれから読むつもりだ。向田邦子さんのエッセイは、他の作家を含めたエッセイ集では読んだことはあるが、本人のみで構成されたエッセイ集は初めてだ。
あと、向田邦子さんの著書の中で好きな作品のタイトルが思い出せない。すごく読みたいのだが全然情報が出てこない。日本画家の老女の衰える目から見える世界と猫の目を重ねる話でこちらも短編だった。しかし思い出トランプには収録しておらず、収録している本も忘れてしまった。猫、とかダイレクトな名前だった気がするが、向田邦子さんは猫好きでたびたび作品に登場するため、インターネットで調べてもはっきりとした情報が出てこない。もはや向田邦子さんの著書なのか不安になってきた。読んだのはだいぶ前だから記憶があやふやだ。こういう時は図書館でレファレンスを頼めばいいんだろうか。
【追記】老女と猫の話は、円地文子さんの『猫の草子』でした。向田邦子さんは猫の印象が強いので勘違いしました。でも好きな作品なので記載したままとします。