本のおすすめする会が開催100回を超え、記念に本を出すことになった。今まで会で話した内容は毎回A4サイズに書き起こされ、店内に張り出されているのだが、そのデータをまとめた本。身内向けだけではなく、バーの店頭や通販サイトで販売するようだ。
料理研究家・土井善晴さんの本は、数年前の本をおすすめする会で『一汁一菜でよいという提案』を紹介している。校了前の本のデータで当時話した内容を見て、『おいしいもんには理由(わけ)がある』を積読していたことを思い出し、読み紹介することにした。
東海道・山陽新幹線グリーン車内に置かれている『ひととき』という冊子に連載していた内容が一冊まとめられている。土井善晴さんが全国の食文化を訪ね歩いた記録。初の紀行書だそう。『一汁一菜でよいという提案』では、食と食事ありようだったり、一汁一菜というスタイル、思想、美学を追求したものだった。
こちらは日本各地に訪れ、生産者の方から感じたもの、また生産者の方の考え方から土井善晴さんが日本の食文化について、再考している。
たとえば江戸佃煮を作り続ける職人や、千葉県八街市の落花生農家、八丁味噌の味噌蔵や金沢にて加賀料理の伝統を受け継ぐ主人に会う。 土井善晴さんが旅を楽しむ様子の写真や、食べ物や料理の写真もたくさん載っており、食と旅行のガイド本にもなっている。北海道や東北・九州地方も訪れており、東海道・山陽新幹線エリアには限られてはない。
上記に記載のとおり、八丁味噌の味噌蔵に行く話がある。八丁味噌は黒く味が濃いが、作るときに使う水が普通よりも少ないそう。もっとたくさん水を使えばたくさん生産できるようだが、そうしはしない。昔はものすごく高級品だったようだ。八丁味噌は徳川家康が好んで食しており健康と長寿の元とされていた。
この前名古屋を訪れたとき、居酒屋で味噌カツを食べたのだが、あまりにもべったり味噌がついてて、一口で飽きてしまった。味噌煮込みうどんも食べたかったが、この味噌カツだけで、もういいや!となり、スルーした。土井善晴さんは味噌煮込みうどんで有名な山本屋総本家にも訪れていて、とても美味しかったと書かれていた。もっと丁寧に味噌を味わえるお店に行けばよかったと思った。
食材は簡単に手に入るが、手元に届くまでどういうストーリーがあったかは深くは知らない。葛粉は葛の根を掘り起こし、大きな機械で砕き、長い時間と工程を挟んで完成する。全ての食べ物にはここにいたるまで、ひとつひとつにストーリー、工程があることを再認識させてくれる。この本は生産者の方の食への関わり方、こめられた美意識に触れることができる。出汁をとったあとの昆布は普通であれば捨ててしまうが、食べれるものを捨てるのはもったいないと言う日高昆布の生産者。出汁をとったあとの昆布は油で揚げるそうだ。美味しそう。
また、そのストーリーを読み取れる土井善晴先生もすごいなと思う。美味しいという結論すぐ出さず、なぜ美味しいかをひとつひとつ考え、理由を知ろうとする。またそれを言葉に表せる方。とくに江戸の佃煮を食べ、この澄んだ味と姿を作れる人は間違いない、会ってみたいとなる感度はすごいと思った。食べ物の味、姿形、匂いなどからさまざまことが読み取れる方。舌も知識も感覚も繊細で鋭い方だと思った。