楽しみすぎて顔面が痛い

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公開:2024/6/7

夜中に(これはいつでもそう)たじまこと『アキはハルとごはんを食べたい おかわり!』三巻(2024)を読み、ぎゃ〜〜〜と叫んでひっくり返った。アキ、東京戻ってくることになってよかったねえ! あとほんとに「恋愛」の描きかたが繊細で心地よい。キスもかわいいしセックスシーン(はない)もかわいい。ぎゅーってしてるの、かわい〜……。

アキハルは大学三年から卒業後の現在に至るまでを描いているBL漫画で、いま単行本は全六巻出ている。ごはんもので、学生同居BL(戸建て)。最近読んだ二冊も学生同居BLだった。学生同居BL(アパート)。

宮田トヲル『彼のいる生活』(2019)と、単行本が今月末に出るらしい早寝電灯『おねがいヒーロー涙をみせて』(2023)。ぜんぜん関連のない二本なのだけど偶然連続して読んだ。どっちもね、よかったよ。とくに『彼のいる生活』がめっちゃよくて、同居の幼馴染という「逃げられない」シチュエーションを理由に、長年抱いている恋愛的惹かれを絶対に打ち明けまいとしている田中(攻め)が、まったくtoxicじゃなくてよかった。自分の恋心より生活空間の安全性を侵害しないことを優先している攻め、助かる。BL漫画において、攻めをtoxicに描かないぞ! という気概を感じるとめちゃくちゃうれしいよね。商業BLって不同意性交と同性愛蔑視の宝庫なんでしょ? と思っている人の感覚はまあもちろん間違ってはいないのだけど、「いま」の商業BLでがんばっている人はたくさんいる。そういう作家に出会うと、これからも楽しくボーイズラブを愛好していきたいと思う。いや、もっと政治の話してくれたほうがうれしいけどもね。あたりまえに。そりゃそうですよ。プライドパレードで歩いてるカップルが出てきたほうがいいし、デモに行くカップルが出てきたほうがいいし、夕ご飯食べながら署名するカップルが出てきたほうがいい。そりゃそうだ。あらゆるエンタメにおいて。二次創作の中でも。ね。だからゥチらは二次創作をして「トランス差別は最悪、パレスチナ解放」てキャプションに書きながらせっせとpixivに作品をアップするんだよね。pixivなんて使わないほうがいいに決まってるんだけど、その場でアピールしたいことがあるからあえて留まって利用している。そういうこともある。できる人がやっていくということが大事。

アキハルの話です。二人は大学四年の頭からシューカツをはじめて、わりと早いうちに内定をとってシューカツを終え、その後はアキが大阪に赴任して遠距離になり、そろそろ東京に戻って同居を再会しようとしているところ。アキもハルもそれぞれシューカツ中はいろいろ悩んでいた。美大生のハルに比べて、アキは自分はやりたいことがなにもないと落ち込んでいたし、いや、やっぱ嘘、ハルは疲れてたことはあるけどそんなに悩んではいなかった。スーパー楽観主義で強心臓。なんとなく進学してなんとなくシューカツに雪崩れ込んだアキの姿のほうが、わたし的にはわかる〜って感じだった。そんなにめちゃくちゃいい大学に行ってる感じの描写もないし、ガクチカてんこ盛りって感じでもない。じっさいこの漫画のシューカツ描写はどっちかというとぬるいし、とくに大きなトラブルもなくサクっと終わる。あとシューカツって金かかるみたいな話あったけど、首都圏に住んでたら交通費も大してかかりませんよね。通るかどうかもわからない二次面接のために往復二万円超を払っている身からすると舐めたこと言ってんじゃねえよとは思う。ひとにはひとのシューカツ。とはいえまあ特権性。二人にとってはとにかく家で好きなやつが待ってると思うとがんばれる、助け合えばなんとかなるというモチベーションで寄りかかり合いながら乗り越えていた。シンプルに羨ましくて一旦画面を閉じる。はあ。羨ましすぎる、好きな同性ダチとの戸建て二人暮らし。星宮いちごと紫吹蘭と同じくらい羨ましい。受験は団体戦だったかもしれんけどシューカツも団体戦の側面もありますけど、結局面接に行くのは一人、内定もらうのも一人、働くのも一人。尾崎放哉もいまシューカツしてたら言っただろう。お祈りされても一人。受験より孤独だろと思う。みんなはどうだった? わたしは団体戦をやるほどまともに大学受験してないからあんまりわかんないけど。

アキもハルも自分の「やりたいこと」を見つめ、まっすぐ内定へと走っていく。眩しい。生活と借金返済のための賃労働にそんなモチベーションのせられない。やりたいことはあるけどそれで食っていきたいわけでも食っていけるわけでもないし、住む場所とか出退勤時間とかいろんな要素を加味していちばんマシな選択肢を探し、それでもなお、いっぱい落とされる。そっちが採用したがってるんじゃないんですか? なぜわたしが大金はたいてトーキョーまで行かなきゃいけないんですか? こないだも書いたけど。マジでしみじみと謎すぎる。こないだ親に「ちゃんと卒業して就職しないと奨学金返せないよ」と脅されたのも謎すぎる。いや、なぜ? マジでこの人って借金させてごめんという気持ちがないらしい。当事者意識、薄すぎだろ。皿洗ってるときに言われてびっくりした。耳を疑った。自分の資金が足りなくて子どもに借金させてる状態でそんなこと言えるのすごいな。図太いというか無神経というか。わたしの親の話はいいんだよ。アキもハルも「やりたいこと」ベースでフツーに待遇のいい会社に入ってすごいねえという話だ。褒めてない。そういう人もいるよねえ。面接でケッコンの予定を尋ねられることもパンプスで足を血まみれにすることもなくサクッと内定を取ってきちゃう人。いるよねえ。いるんだよね。いっぱい。

シューカツ経由BLでアキハルよりよかったのは、百瀬あん『幼馴染じゃ我慢できない』二巻(2022)です。全三+一巻で、シューカツのエピソードが載ってるのは二巻。蒼衣と諒太、またこの二人も幼馴染で学生同居BLなのだけど、アキハルと違うのはシューカツがだいぶキツそうなところ。内定取れてるわけじゃないけどあんまり落ち込んでない蒼衣と、内定が取れず寝不足でずっと悶々としている諒太のようすが「ある〜」って感じする。蒼衣は近所のアパレル店員のお兄さんに会社を紹介してもらおうして、「諒太が頑張ってんのに俺紹介してもらっていいのかなって……」と悩む。いま読み返すとめちゃくちゃシューカツの解像度高くない? すごいな。シューカツ漫画と呼んでも過言ではないかもしれない。結局二人とも無事内定を取ったのだけど、諒太の就職先選びの理由がすごくいいのだ。それを尋ねた蒼衣に、諒太は自分たちが部屋探しに苦労したの覚えてる? と語り始める。

あれって同性カップルもルームシェア扱いなんだよね

でも内定くれたとこは同性カップルでも男女と同じ扱いで番査する方針なんだ

そういう会社とか…考え方が世間にもっと浸透したらいいなって

せ、政治的なボーイズラブ漫画!!!!! あんまりそういう作風じゃないと思ってたからはじめて読んだときそれは驚いた。第一線で活躍する作家がこういうBLを描いているということは、マジで希望だと思う。BLファンはこれを読んでいる。それってすごいことだ。百瀬あんは、絵自体はあんまりエロくないけど文字がめちゃくちゃエロくてちょっとウケちゃうのでおすすめです。不同意性交もちょっとあります。そしてこのあと、二人はなんと市役所に婚姻届を取りに行って、「これが受理される世の中になったらいいな」と笑うのだ。すごくないですか? いや他人事よ! というのはあるけれども、あるけれどもすごい。何度も言うけどBLファンはこれを読んでいるのだ。「よくわかんないけど同性婚できる世界線」とか「結婚できなくてもお前がいればいい」とかではなく、これが、あるのだ。すげー。二〇二〇年代、マジで捨てたもんじゃない。ヘルな社会を生き抜くハッピーなBLを読むと、冗談抜きで、明日も生きてみようと思う。でもこの漫画は不同意セックスあります。なくはないではなく、ある。ないほうがいいですね。若しくは注意書きが徹底されていたほうがいいです。そうしてくれ。

てか高校生でもリーマンでもなくて大学三年〜四年のシューカツBLってけっこうあるかも? まとめてみようかな? ほかにもあれば教えてください。


参考(いずれも一巻)

  • 宮田トヲル 彼のいる生活(2019)

  • たじまこと アキはハルとごはんを食べたい(2020)

  • 百瀬あん 幼馴染じゃ我慢できない(2021)

  • 早寝電灯 おねがいヒーロー涙をみせて(2023)

@konnasekaiwo
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