半径1mの優しさ

kotominoto
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朝8:29の東京都××区××駅

通勤ラッシュ時間帯の改札前

どぅうおおおおおおっと濁流が流れてくるかのように、前から人がとんでもないスピードで押し寄せてくる。東京の朝は、街中濁流だらけである。

私はどうもこの人の流れの中で身動きをとるのが苦手で、右に行けばいいのか左に行けば良いのかわからなくなっておどおどしているうちに、濁流の中に飲み込まれる。

今日も濁流回避に失敗して、いつもの如く濁流の中に飲み込まれそうになったのだが、今日は濁流に飲み込まれるのではなく、岩に当たったとでも言おうか。先頭をズカズカととんでもないスピードで歩いてくるおじさんにぶつかられた。

ぶつかる気しかないでしょ、と言わんばかりに私目掛けてぶつかってきた。なんてやつだ。

自分の身の回り半径1mも譲れないことがどれだけ人を悲しませるか、あのおじさんが知る由はあるのだろうか。

我先にと思う気持ちは分からなくない。でもその半径1mを誰かに譲ることができれば、世界はもう少し優しさに救われるかもしれないのに。