我が家にペットはいない【出会い編】

奥 琴音
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私は昔から動物嫌いだった。

実家で犬を3匹飼っていて、ほかの家族はみな彼らを愛しているようだったが、私はどうしてもずっとそこに馴染めなかった。

だから、夫の趣味が動物園めぐりで、実家で長年飼っている猫をこよなく愛していることを聞いた時、私は言った。「動物園は苦手だから行かない。あと、実家の犬でこりごりだから新居でペットは絶対に飼わないよ」と。

実際、今も我が家にペットはいない。ペットは。

ただ、我が家にはハッピ~プリティメルティキャンディ天使ちゃん♂がいる。その名も虎千代。キジトラ柄がなんともキュ~トなネコチャンである。家では、てぇち♡だとか、とらちゃん♡だとか呼んでいる。ANGELネコチャンなので、正真正銘家族だし、ペットではない。

てぇちとの出会いは5年ほど前にさかのぼる。

結婚してなお、私は動物好きの夫の影響を全く受けず、動物嫌いのままだった。嫌いというより、正しくはどう接したらいいのか分からないのだ。実家の犬にも懐かれないし、そうするとさしたる興味もわかない。幼少期はぬいぐるみもそんなに好きじゃなかったようだし、毛深いモノが好きではないのかもしれなかった。

けれど結婚して半年ほど経った時、夫が仕事で多忙を極め、しばらく家の中に一人という日々が続いた。夫がいないと、当たり前ながら家にひとりぼっちだ。一人でできるような趣味もなかった私は、Twitterを見たり、家事をしたりしながら何とかやり過ごしていたのだが、それにも限界があった。

そんなある日、休日に夫とデートした先でペットショップに入った。ペットショップなんてろくに入ったことのなかった私だったが、どうしてかその日はそこに足を踏み入れ、あろうことか店員さんの勧めで、よく見も知らぬ品種の子猫さんを抱っこしてしまった。

猫さん、なんかスミマセン……。

……ッ!?

えっ。ちいさ。やわらか。なんだこれ。これは……

ンガワイイ~~~~~~~~~~~~~~!!!!!!!!!!

今すぐ連れて帰りたいんだが!? 私は値札を見た。そして、そ……っと店員さんに猫さんをお返しした。なるほど狂ってる。動物を飼うなんてこと、やっぱり酔狂な人のすることだ。諦めるしかあるめぇ。

そう。ペットショップは諦めるよ。ペットショップはね?

私は知っていた。実家では犬をブリーダー経由でお迎えしていたので、ペットショップにこだわる必要がないことを。

夫は「まだ結婚して一年も経ってないのに、新しい家族を迎えるの?」と寂しげに聞いてきたが、私はそんなのお構いなしに調べ続けた。そして、ついにとあるブリーダーさんに辿り着いた。

そこは大手の仲介サイトなどには掲載せず、細々と営業しているブリーダーさんのようだった。子猫が生まれると、ブログやホームページに何枚もの写真や音楽付きの動画を掲載してくれる。その動画が、すっごくよかったのだ。手間暇かけて作られた動画という感じで、それぞれの猫ちゃんが幸せなお家に行けるように、それぞれの可愛さがたっぷり引き出されているようで。

見ているうちに、気付いたら涙がこぼれていた。

この猫ちゃんたちを幸せにしたい。

そうして、いざブリーダーさんのお宅に見学に行くと、何匹もの可愛い子猫ちゃんが、怯えた顔で私たちを見上げていた。スミマセン……。だけど、一方で、ブリーダーさんにはとても懐いていて、それだけ愛情を注がれているのだということが伝わってきた。なんか、よかった~。

けれど、私たちに怯えて部屋のすみっこで固まる子猫ちゃんたちからちょっと離れたところに、勇猛果敢にこちらに向かってくる一匹のキジトラ猫ちゃんがいた。ようやくご登場。これが未来のてぇちです。

ブリーダーさんのお宅で初めて会った日のてぇち
小さい。ブリーダーさんのお宅で初めて会った日のてぇち。

キジトラ猫ちゃんは遊び好きのようで、私たちの持っている猫じゃらしが気になっているみたいだった。かわいいな。そんな風に思いながらも、私は猫初心者もいいとこなので、まずはブリーダーさんからしっかりお話を聞こうと、子猫ちゃんたちよりブリーダーさんに注意を払っていた。

あんまり長居するのもよくないので、子猫ちゃんたちの写真をそれぞれ撮って、その日は一度帰ることにした。

「かわいかったなあ。でも、難しいね。全員お迎えすることはできないし、なんか決めどころがないや」帰ってから優柔不断に悩む私に、夫が言った。「そう? あのキジトラの猫、ずっと琴音のこと見てたけど」「えっ、ホント!?」私は目をむいた。なぜなら私も、決めるの難しいとか言いながら、彼のことが一番気になっていたからだ。

「うん。琴音が見てる時は知らんぷりしてたけど、琴音がよそ見している時、ずーっと琴音のこと見てたよ」「……そうかぁ」「俺はあの猫、いいと思うよ。琴音のこと、大事にしてくれると思う」「私が大事にするんじゃなくて?」「うん。琴音のこと好きでいてくれる猫が、俺はいいと思うな。俺と猫とで琴音の取り合いになるだろうから、それは寂しいけどね」いつも通りの、のんびりした口ぶりで夫が言った。

それから私はすぐにブリーダーさんに連絡をして、てぇちを我が家に迎えることに決めた。

夫の言った通り、てぇちはマジで愛情深い猫だった。年々甘えん坊になるばかりだ。

お迎え当初は私の顔をべっろべろに舐めて肌荒れさせるわ、枕のすぐ横で寝るのでスマホいじれないわ、今でも私が寝ているとすぐに顔の近くでフミフミを始めるし、私が本を読んだりスマホを見たりしていると怒ってマジ噛みするし、お風呂やトイレに入ると扉越しに鳴き散らかされるし、人間が立ち上がるとお腹を見せて転がるし、外出しようとすると玄関のきわきわで丸まるし、夫と私が言い合いになると仲裁に入ってくれる。

そんなわけで、私はてぇちをきっかけに、あっという間に猫好き、ひいては動物好きになっていった。

だけど、いまだに動物園には行けてない。マヌルネコとか見てみたいんだけど。だけど、なんか。

てぇちに悪いような気がして、浮気みたいになるような気がして、今度は別の理由で気が進まないのだ。

夫よゴメン。動物園は、あなた一人で行くのがいいかもしれない。

てぇち近影。あくび姿。
てぇち近影。後頭部。
てぇち近影。外出許さないマン。

※てぇちをお迎えしたあとに知ったことなのですが、ペットショップやブリーダー以外に、保護猫譲渡会などでお迎えすることもできるそうです。この記事を見て、犬や猫を自宅に迎えることに興味を持たれた方は、ぜひさまざまな方法をお調べいただけたらと思います!

@kotone
百合と猫と夫と美味しいもの