百合なるもの
百合というものについて語ることは難しい。
たとえば私の場合、女の子が二人いて、その二人が互いに何らかの感情を持っていたら、たとえそれが嫌悪や憎悪だとしても、もう百合だと思ってしまう。
女の子がたくさんいて、わちゃわちゃしてるだけでも、もうそれは百合。
なんていうか、百合はこちらが勝手に見出すものなのだ。定義されるものじゃない。
最近は、百合とレズビアンは違うもので、創作の上でもそれは分けて考えるべきだという考えもあるようだけれど、少なくとも私個人としては、フィクションにおいてはあまり細分化されない方がいいんじゃないかと思っている。淡い思いも、クソデカ感情も、恋愛感情も、性愛も、総じて百合としてしまう方が「私が」幸せだからだ。
いや、ていうかさ……細分化した結果「百合なるモノ」が減るより、広い視野(とオタクの思い込み)で見て、百合をデカく摂取できた方がいいでしょjk
と、そんな風に、私が百合にハマるに至ったのは、ある三作品の存在に大きく影響を受けたからだ。タイトルの通り、さっそく私の百合歴について語っていきたいと思う。
『マリア様がみてる』
誰もが知ってるであろう百合の金字塔。
百合に限らず、ある世界観における人と人との「関係性」というものが書かれた作品の中で、こうも完成されたシリーズを私はほかに知らない(注:そもそも私はあまりシリーズ物を読まない)。
お嬢さま学校として知られている私立リリアン女学園高等部には、上級生が下級生を導くべく生み出された「姉妹制度」なるものがある。上級生が自らのロザリオを下級生に授け、二人はそうすることで学園内での疑似的な姉妹関係を結ぶのだ。
また、「山百合会」という生徒会組織が存在し、3名からなる生徒会長、通称「薔薇さま」とその妹たちは生徒たちの憧れの的であり、多くのファンが羨望の眼差しで見つめている。ちなみに中庭にある生徒会本部は「薔薇の館」と呼ばれている。
そしてこの薔薇さま、紅薔薇さま(ロサ・キネンシス)/黄薔薇さま(ロサ・フェティダ)/白薔薇さま(ロサ・ギガンティア)という風に書かれ、あるいは呼ばれており、口語の上ではカタカナの方でお呼びする。
さらにその妹は薔薇のつぼみと呼ばれ、紅薔薇さまのつぼみの場合は「ロサ・キネンシス・アン・ブゥトン」とお呼びせねばならない(仲いい場合は普通にさん付けとか、呼び捨てだったりはする)。
紅薔薇のつぼみの妹ですか? 「ロサ・キネンシス・アン・ブゥトンのプティ・スール」です。一巻を読破する頃には、舌の上で転がすように言えるようになってるから不思議。
当時中学生だった私、この頭のこんがらがりそうな設定に爆裂大ハマりしてしまう。
設定こそ素っ頓狂に、あるいはリリカルすぎるように思われるかもしれませんが、描かれるストーリーは清潔さや面白みを損なわないまま、それでも時に少女たちの痛みや苦しみを克明に描いていきます。
山百合会メンバーが活躍する本編も面白いですが、そうした痛みや苦しみ、少しの切なさにスポットを当てるのであれば、本編にはあまり出てこないキャラクターが主人公となる短編集もぜひおすすめしたいところです。
また、女子校という一見閉ざされた世界観ながらも、メインキャラクターの家族だったり婚約者だったりと、サブキャラクターとして男性も登場します。私は、女の子しかいない世界で築かれる百合も好きですが、男性が登場する世界の中で、それでも互いを一番に思う百合も大好きなので、本作での男性の描かれ方もとても好きです。
1巻目だけでメインキャラクターが勢揃いして、内容としてもきちんと収まるところに収まっていて気持ちよく読める作品なので、気になった方はぜひ1巻だけでもお手に取ってみてほしい……!
『マリア様がみてる』にハマった私は……
とはいえ、当時は百合というジャンル自体もあまりメジャーではなかった(という体感でした)し、ジャンルが存在したとして、そこにうまいことアクセスする方法を私はほとんど持ちませんでした。
とりあえずインターネットで自分の好きそうなキーワードで調べまくったり、本に詳しい友人に聞いてみたりして、片っ端から読みあさりました。
吉屋信子のエス小説、氷室冴子の『クララ白書』『アグネス白書』や『さようならアルルカン』、岩井志麻子の『女學校』、栗本薫の『ウンター・デン・リンデンの薔薇』、山田詠美の『蝶々の纏足』、三浦しをんの『秘密の花園』などなど……
印象に残っている作品をこうして並べてみると学園物ばかりですね。当時は自分も女子校に在学中だったので、自己投影しながら読んでいたところもあると思います。
そんな中、また新たな作品に私は出会います。
『舞-HiME』
2004年から2005年にかけて全26話構成で放映されたアニメーション作品です。
あらすじはWikipediaから引用します。
奨学金を得て、風華学園に転入することになった鴇羽舞衣は弟の巧海とともに、フェリーで風華学園に向かう途中、漂流していた美袋命を助けたことが縁で、楯祐一・宗像詩帆とも知り合う。楽しい船旅はやがて、玖我なつきの襲撃で終わりを告げる。
なつきの目的は美袋命だったが、場に居合わせた舞衣はHiMEとしての能力が発現し、なつきの攻撃を防御してしまう。舞衣の覚醒を目の当たりにしたなつきは、舞衣に学園に来ないよう忠告する。
舞衣はなつきの忠告の意味を理解できないまま、学園生活を満喫していたが、弟の巧海がオーファンという謎の生物に襲われているのを見て、HiMEの能力で倒そうとした時、そこに現れた炎凪が、HiMEの守り神であるチャイルドを召喚するよう勧める。
巧海を守るために、チャイルドを召喚した舞衣に対して、凪は「チャイルドを持つならば自分の大切なものを賭ける」、と意味深なセリフをつぶやく。
一方、なつきは舞衣に、風華学園にHiMEが集められていること・そのことに一番地と呼ばれる国家機関が暗躍していることを教える。
HiMEの中には、突然目覚めた自分の能力に戸惑う者もいた。その一人、日暮あかねは恋人の倉内和也に自分の秘密を打ち明け、倉内は笑顔でその秘密を受け入れる。
しかし、突然の深優・グリーアの攻撃によって、あかねのチャイルドは倒され、倉内は消滅してしまう。
凪が言った「自分にとって一番大切なもの」と言うのは、自分にとって一番大切な人という意味だったのである。
そんなこんなで「自分にとって一番大切な人」を賭けて、バトルロイヤルすることになるHiMEたち。
ここで百合の快進撃を見せてくれるのは、生徒会長・藤乃静留(ふじの しずる)さんです。彼女はいかにも優しげな京ことばが特徴的な、おっとりはんなりとした美少女。
好きな和歌は式子内親王の「玉の緒よ 絶えなば絶えね 長らえば 忍ることの 弱りもぞする」。ちなみに私はここから和歌にもハマった。
しかし百合慣れた方なら分かるでしょう。作中で無害そうに微笑む人は、だいたい物語の後半で誰かへのクソデカ感情を爆発させるということを……! ヤンデレと百合の組み合わせって最高だよね。
声優さんの演技が素晴らしく恐ろしいので、言葉で説明するのは無粋なような気もします。26話全てを見る体力がない……とりあえず百合的シーンだけでも摂取したい! という方は、ぜひ21話から見てください。いや、できれば19話から……もっとできれば全話……面白い作品なので……。
続編として、スターシステムを採用した別世界観の作品「舞-乙HiME」という作品もあり、全体的な百合濃度としてはそちらの方が濃いめかも。どちらもおすすめです!
ただ、ゲーム版はなぜかギャルゲーになってたので許しません。静留は攻略対象じゃないからよかったけど……。
『極上生徒会』
なんでこう、学園物とか生徒会とか好きなんだろう……? いや好きなんです。好きなんだから仕方ない。
極上生徒会は、ゲームで有名なコナミが企画した2005年放送のアニメーション作品です。あらすじはまたWikipediaからお借りしよう。
宮神学園には、同学園理事長兼学生・神宮司奏を会長とする「宮神学園極大権限保有最上級生徒会」(略称:極上生徒会)と呼ばれる組織があり、教職員より強い権限を有している。
極上生徒会メンバーには冷暖房・娯楽施設・食事完備の生徒会専用寮「極上寮」の一室を無償提供され、学費も全額免除されるという特権が与えられる。
そのメンバーになるには特別な才能が必要と言われており、学園内には極上生徒会入りを目指して日々努力している生徒も多い。しかしその実体は、生徒会というよりは奏の「親衛隊」といった色合いが強い。「宮神学園を生徒達にとっての楽園にする」という奏の理想を実現させるために、身を賭す集団である。
1年前に母・ちえりを亡くして以来、母の遺品である腹話術の人形・プッチャンを唯一の友としてきたメインヒロイン・蘭堂りのはペンフレンドのミスター・ポピットの紹介で宮神学園へ転入することになる。
転入初日、りのが転入したクラスではクラス委員の選挙が行われた。桜梅歩の推薦でクラス委員に立候補する羽目になったりのは前クラス委員で極上生徒会メンバーでもある和泉香をなぜか破り、クラス委員に選ばれてしまう。さらには奏の強い意向で、書記として極上生徒会に入ることがすんなりと決まる。
お世辞にも役に立つ能力があるようには見えないりのの極上生徒会入りは多くの生徒達の反発を招き、極上生徒会メンバーも動揺を隠し切れなかった。しかしそれを意に介さず奏はりのに過分な愛情を注ぎ、りのもまたいつしか極上生徒会に馴染んでいくのであった。
……といった感じで、奏とりのの百合(作中では「ぱやぱや」と呼ばれている)がメインなのだが、この作品も前出の『マリア様がみてる』のように、生徒会を中心としたさまざまな人間関係が描かれ、三角関係萌えやバディ・コンビ萌えすることができる。
あ、宮神学園はもちろん女子校です。
また、極上生徒会は主に「遊撃部」と「隠密部」という二つのグループに分かれており、遊撃部は身体能力に自信のある者が、隠密部は諜報活動を得意とする者がそれぞれ所属していて、その「何だそりゃ」感もまたいい。しかもなんだかんだかっこいいし、オタク(私)ってこういうの好きなので……。
色んなタイプのキャラがいて、それぞれの過去も丁寧に描かれていくので、ぜひ贔屓のキャラを見つけて百合を見出してほしい。
ちなみに私が好きなキャラは生徒会副会長/隠密部統括である銀河久遠(ぎんが くおん)さん。見た目も好みなんだけど、過去編が最高にイイのでぜひ見てほしい。ていうか隠密部マジかっけー。全キャラ好き。
前出の二作品に比べてシリアス度は低いので、息抜きに見られる作品だ。ただ、配信が行われていない作品なので、DVDを購入する必要がある。
ちなみにこの作品もゲーム版でギャルゲーになった。信じられない。なんでお互いを一番大切な人って言ってたキャラ同士が恋のライバルになる? 許せない。
最近
これも百合と分類するのか微妙なラインだろうが、最近は柚木麻子さんのシスターフッド小説を好んで読んでいたりする。シスターフッドだと山内マリコさんの「あのこは貴族」とかもよかった。今はどちらかといえば成人した女性が主人公の、リアリティのあるものを好むようになったと思う。
学園物を好む癖が落ち着いたのは、やっぱり自分も大人になったからかなあ。とはいえ、学園物百合の噂を聞きつけたら速攻で買ってしまうと思う。
多様性が重んじられるようになった昨今は、百合というジャンルを消費することについて、自分はアップデートされていないのではないかな? と不安を覚えることもある。安易に萌えることは、誰かを傷つけているのかもしれないと。
それでもやっぱり、百合が好きだ。百合というジャンルは私にとって生涯の友だし、私の人生を豊かにしてくれた恩人だ。リアルとフィクションの境目を決して違えないように気を付けながら、今後も楽しんでいけたらいいな、と思う。