幣サークル「いつかのリリーホワイト」は、執筆担当である椙山と原案・編集担当である私とで構成されている。
もともと椙山は個人サークルで活動していたのだが、先日の文学フリマ東京37での新刊頒布をきっかけに活動をともにすることとなった。
文学フリマが終わり、ようやく執筆と校正と宣伝の日々から脱した私たちは、ここ半月ほどインプットに勤しんでいた。積ん読していた小説や漫画を読んだり、文学フリマで新たに購入した書籍を読んだり。お互いに日々の生活や余暇を楽しんで、少しずつ執筆を始める前の日常に戻ってきていた。
しかし今日。いよいよ衝動を抑えきれなくなった私は言った。
「そろそろ次回作、どう?」
前々から互いの間にふんわりとした構想はあって、ただ、イベント後の余韻が去ったら去ったで穏やかな日常を味わっていたい自分たちもいて。椙山の意欲もどうかな? とはかりかねていたところもあったのを、とうとう耐えかねて聞いてしまった。
対する椙山は、二つ返事でこう返してきた。
「書こう。書きたい。この半年書いてきた感触が消えないうちに、新しいのいきたい」
よっしゃ。そうと決まれば会議じゃい。
会議というか、キャラクターやプロットの骨子、絶対に入れたいシーン集やセリフみたいなのを思いつくままに私が話していく。私の頭の中で、半月近くその蓋をカタカタと揺らし続けていたアイデアは、話し始めた瞬間とめどなくあふれてきて、マジで姦しかった(女3つ書くから百合っぽくて『姦』って漢字好き)。
椙山はその間、ほとんど言葉を挟まない。気持ちよく話している間に、あっという間に1時間経っていた。
「分かった。今もらったの忘れないうちに書きつけておきたいから、このまま作業入るわ」「うん、そうしてください。あっ、今回はこことこことここにこだわって、あれも忘れないようにしてほしいです。それから……」私はめちゃくちゃ神経質で心配性だ。私よりさらに慎重な気質の椙山を信じていないではないのだが、ついあれこれと言葉を足してしまう。「分かった」短くそういう椙山は、どうやらもう作業を始めているらしい。キーボードの音が聞こえてくる。
椙山が執筆モードに入ったのだな、と分かる。そうすると、私は無性にうれしくなる。かつて私は椙山のファンだったからだ。あ、今もか。椙山の書くものが好きだ。ミスキーでのふとしたノートなんかもセンスがあって面白い。私にはないものを持ってる人だとシンプルに尊敬している。脳みその中身を覗いてみたい人ナンバーワン。
そんな椙山は、故あって数年ほど執筆活動から離れていたようだが、今また、その間に燻らせていた情熱を一気に吐き出すようにして、百合火炎放射器となっている。私はその火花が散るのを間近で見て、僭越ながら、時に火炎放射の角度や強度を調整したりする。これは大変に贅沢で、幸せな体験だ。
互いに実生活やほかの趣味があるから、きっとこの時間は永遠ではないだろう。だけど、私がそれを嘆くことはない。互いに、いつもこれが最後かもしれないと思って、でもこれを最後にしたくないと思いながら、同じだけ情熱を注ぐことができるから。
そんなわけで、百合、またはじめます。乞うご期待!