2024/10/1+『灯台へ』

koyoko
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公開:2024/10/2

第1章-p.85

調子が悪くてとりあえず寝る前に本を開いては、栞(必ず図書館の貸出票を半分に折って使う)を挟んだページの数行を追い、紙の上に整列した文字がばらばらになってゆくので本を閉じ、次の晩も同じ行を読んでは閉じ、をくり返していた。不調の一因は生理だったのと、カウンセリングもあったことで若干持ち直し、トランスジェンダー映画祭で配信されていた『ゲームフェイス』を見終えることができてうれしかった。10/1はパレスチナ連帯のためのグローバルストライキが企画されていたこともあり、自分の調子もよかったためインターネットから離れて本を読んだ。リリー・ブロスコウとウィリアム・バンクスの部分が読んでいて好きだな~と思っていたら、ラムジー夫人やジェイムズ、ラムジーのくだりを経て流れるようにリリー・ブロスコウとウィリアム・バンクスの元へ語りが戻っていったのが心地よかった。

子どもが寝た後ばかりは、だれの心配をする必要もない。本来の自分でいられる。独りになれる。いまの自分に必要なのは、それなんだと思う――考えること。いえ、考えるとまでは言わない。せめて黙って静かにすごしたい。ふだん人といっしょにいると、ついあれこれに手を出し、うわべを飾りたて、とかくお喋りが多くなるものだけど、独りになったらそういうあり方や行動はいっさい消えて、人はおごそかな気持ちにうたれて小さくなり、自分自身にもどる。自分というのは、くさび形をした闇の芯みたいな、他人には見えないものだ。夫人は編み物をつづけ、あいかわらず背筋をぴんと伸ばしていた。こういう姿勢のほうがくつろげるのだった。この、いろいろな付属品を捨て去った後の自分というのは、摩訶不思議な冒険も自由自在だ。日常生活というものがいっとき目の前から消えると、経験の可能性までが無限に広がる気がする。力がいくらでも湧いてくるこの感覚は、だれしも日々覚えるものでしょう。人形をした幻を見て周囲はそれを当人だと思うだろうけど、そんなものは子ども騙しにすぎないんだと感じているのは、この自分だけではなく、きっとリリーもオーガスタス・カーマイケルさんもそう思っているに違いない。

第1章 p.81

ところで皿を割った。特に思い入れがあるわけでもない100均のものだが、割ったと認識した途端、全身の力が抜けてものすごくかなしくなった。わたしのことなら、掃除がめんどうくさいとか、割れ物の捨て方ってどうするんだっけ?みたいなことが真っ先に頭に浮かびそうと自分で思っていたのだが、ついさっきまで皿だったはずの大小の破片を目にしたら表現しようもなくとてもかなしくなった。音に過敏なのでその影響もあるかもしれないものの、皿ひとつ割っただけでこんなに動揺するか?と、頭の奥から冷静っぽい自分がつっこむほどかなしくなった。こういうときって、目の奥のほうから力が抜けて、重力に逆らえないというか、なにかにうしろから引っ張られているような感覚になって頭が重くなる。全身の血の巡りが止まってすべて下に滞留しているみたいに体がだるくなる。しばらくぼーっとしたあと、念入りに掃除をした。そういえば歴史ドラマでかわらけを割るシーンでもどきっとしている気がする。(かわらけは消耗品なのだが)

かなしくなって脱力したまま、今日は彼岸の残りのあんこを使ってあんまんを作ると決めていたので、昼にせっせとあんまんを作った。生地は、ウー・ウェンさんの薄力粉200gのレシピを半量に変えたものだ。イーストがあれば薄力粉で気軽に作れるので、たまに作っている。蒸籠や蒸し器で蒸すのもよいが、フライパンにオーブンシートを敷いてその下にお湯を張る簡易版蒸し法(?)で作ると、生地の底に焼き目がついてそれが好きなので毎回簡易版で作っている。かなしくてへろへろになっていたが、発酵した生地独特のやわらかさと、蒸気のなかでむちむちに膨れたあんまんを見ていたら少し回復した。発酵不足か火加減のせいで表面がすこしぼこぼこになったが、蒸したてのふかふかで底がぱりっとしたあんまんを食べると、さらにもう少し回復した。余ったあんこは小分けにして冷凍したし、イースト(実は期限が切れている)もまだ残っているので、近いうちにまた作りたい。ただ平気で全部ひとりで食べてしまうので、たまに食後お腹をくだすのには気をつけたい。(これが不耐性というやつ? わからんけど血糖値のために気休めにスクワットをした)

調子が上向きになった一方で、リアルタイムでいまいち乗り切れていなかったとらつばの完結のさみしさがじわじわと襲ってきている。ああよねさん。よねさんのアイデンティティはわからないが、尊属殺という家父長制の柱のひとつのような裁判で、そもそも法や制度にも想定されていない(つまり社会のなかでも)男女二元的な規範から「外れた」存在であるよねさんが最終弁論を行ったことが熱い。めっっちゃ熱いしよねさんがだいすきだが、よねさん一人をヒーローにしないように、わたしもできることをやっていきたい。とりあえず体調を安定させたいよね…うっ…

おわり


ヴァージニア・ウルフ、ジーン・リース、鴻巣友季子訳、小沢瑞穂訳『灯台へ/サルガッソーの広い海』、世界文学全集Ⅱ-01、河出書房新社