佐藤竜一『宮沢賢治の東京 東北から何を見たか』(日本地域社会研究所 1995.11)

koyomi
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公開:2025/9/7

宮沢賢治って、時系列に沿って彼の人生を年表で見れば、ワナビ(死語)なまま早世してしまったひとのように見えてしまう。

でも、出版がいよいよ産業として確立されつつあった大正から昭和にかけて(つまり、言論の質が変わり、軍部主導の政府と言論が固着していった時代)、出版産業や文壇と(心理的にも物理的にも、いま考えれば幸運にも)距離を置いていたことで保存されていたものが、とくに戦後になって見出され、みなの心を打ったのだろうと思う。

上京するたびに彼が見ていた東京のモダニズム建築は、その距離ゆえに、シンボルとなって作品世界にちりばめられている。その建築と賢治の関係を追った本。

同じように建築が大事な意味を持つ作家に稲垣足穂がいると思うけれど(賢治と足穂は4歳差で、足穂も長いことワナビをしていたが賢治と違って戦後まで生き延びた)、勃興するモダニズムを文学者がとりこむとき、建築は非常に重要な仲立ちをしていた。建築だけでなくテクノロジーも(賢治は汽車、足穂は飛行機)。

賢治と足穂を、この時代のモダニズムを介して対照させるような批評も読んでみたいなと思ったりする。