岸政彦・川野英二 編『岩波講座 社会学 第2巻 都市・地域』

koyomi
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公開:2025/8/30

いま最新の社会学をまとめた「講座シリーズ」本としてはたぶん最新のもの。この巻では、都市社会学の研究動向を、総論や各論としてではなく地域別に研究した論考を収めている。巻末の「編集方針」でも書かれているように、こういう地域別研究をもとに現在の都市社会学を俯瞰してみる試みは新しいようだ。

わたし個人としては都市化や過疎化によって、人同士のつながり、特に第一次紐帯がどのように変化していったかが気になっている。最近の研究では意外にも、すくなくとも都市化の進展が第一次紐帯を量的に減少させたという事実はないという。ただ、その紐帯はさまざまな方向に分散してしまっている。家族、ジモトの友人、地域社会の近隣との関係だけではなく、複数の分野での同好の士、あるいはネットだけのつながりが増え、その結果ひとつひとつの紐帯の強度が弱まっている。そのために「都会では人間関係が希薄だ」という実感を形成してしまっている。こういう実感や不安を解消するためにSNSが利用されているのではないかと思える。

地域における住民同士のつながりの強化のために、それぞれのコミュニティが試行錯誤を続けているが、コミュニティの成り立ち、地理的な特徴、住民の階層などによって、かなり方策が違うであろうこと(当たり前なようでいて当たり前ではないこと)も示されている。たとえば「不利の集積/蓄積」の度合いが高い地域では治安不安が大きくなる(治安が悪くなるということではない。不安が増大するということ)。この本に書かれていることではないけれども、いまクルド人問題で揺れている川崎市などは、数年前には(当初は主に在日コリアンを念頭に)、ヘイトスピーチを禁ずる条例が成立していたのだ。にもかかわらず急速にネットでだけではなく現地でも治安不安が高まっているのは、法制度を整えるだけでは問題の解決にはならないことを示している。川崎市における高度に「不利の集積」が見られるエリアへの具体的な施策がなければ、根本的な解決には至らない。

同時に、川崎市の事例の場合に気になるのは、在日コリアン・コミュニティはクルド人たちについてどう考えているのかということだ。かつて京都市では大規模な「オールロマンス闘争」が同和団体によって行われたけれども、同じように当事者であったはずの在日コリアンは運動から置き去りにされた。反差別運動においては、マイノリティ性を背負っている点では同じはずの別のアクターを、政治的に見捨てるということはわりと頻繁に起きる。川崎では実際になにが起こっているのか、実のところ肝心なところが判然としない。いまごろ社会学徒たちのなかには、川崎のコミュニティに入って調査を行っているひとたちもいるんだろうけれども、行政はそういう活動こそ支援したほうがいいように思う。

この本に収載されている11の論文は、それぞれ異なった地域、異なったソサエティへ下ろされたゾンデから得られた限られた情報とその分析である。ゾンデは多いほうがいいに決まっている。この限られた予算と人的資源のなかで、社会学徒の皆さんの努力にはほんとうに頭が下がる。アメリカのようにならないためにも、頑張ってほしい。