読み直すのは、もう何度目か。今日もまた、『日本の弓術』を読んでいる。岩波文庫のこの本は薄くて、120ページほど。このうち、ヘリゲル氏の講演にあたるのは、66 ページくらいだから、更に短い。
この本を知ったきっかけは、森博嗣『喜嶋先生の静かな世界』内で引用文として書かれていたのを読んだことによる。
ヘリゲル氏と阿波研造師範とのやりとりは、何度も読み返したくなる、不思議な魅力がある。例えば、最初に阿波師範がヘリゲル氏に稽古弓を渡して、このように話をしている。
あなたは弓を腕の力で引いてはいけない。心で引くこと、つまり筋肉をすっかり弛めて力を抜いて引くことを学ばなければならない (p.27)
一年経って弓の正しい引き方を会得し矢を射放つことを許可されたヘリゲル氏が、矢の放し方に悩む中、阿波師範はこのように話している。
(前略)術のない術とは、完全に無我となり、我(われ)を没することである。あなたがまったく無になる、ということが、ひとりでに起これば、その時あなたは正しい射方ができるようになる (p.33)
的を中てることになった際、的に中てるとなればどうしても狙わないわけにはいかないと話すヘリゲル氏に対して、阿波師範は何回かに分けて、こう言っている。
いや、その狙うということがいけない。的のことも、中てることも、その他どんなことも考えてはいけない。弓を引いて、矢が離れるまで待っていなさい。他のことはすべて成るがままにしておくのです。(p.42)
(中略)それゆえあなたは的を狙わずに自分自身を狙いなさい。(p.43)
(中略)中てようと気を揉んではいけない。それでは精神的に射ることを、いつまで経っても学ぶことができない。(p.44)
こういう言葉の一つひとつを、自分に向けて考えてみる。外のことよりも内をみて、次第にその内をも視野から失うこと(これも阿波師範が言っていた)に集中した方がいい。そう思う。
Audible にはまず無いので、一回、自ら音読したものを録音・編集したことがある。何というか、自らの声を自ら聴き返すので、何とも言えない気持ちになった。一度、ネット公開したことがあったが、著作権の問題を鑑みて直ぐに削除した。聴いた人はいないんじゃないかと思う。