雪とは虚無の形をしている

 冬だ。北国の、それもそれなりに雪深い地域の雪だ。

 空から落ちてくる白い悪魔、あるいは虚無との戦いはいつだって唐突にはじまる。そう、不意打ちも奇襲もゲリラ戦も向こうにとっては朝飯前なのだ。

 前の日の夕方きっちりと除雪された自宅敷地に、雲間から見えるきらきらしい星空に、輪郭が滲む欠けた月に、明日はいい日に違いないと布団に入り眠る。そして翌朝見るんだ。半分まで真っ白に埋まった車を。

 あの時の虚無感といったら、明日食べようと冷蔵庫に入れていたデザートが何者かに食べられていたときの虚脱感に似ている。食べたの自分だけど。

 軽い雪ならばまだいい。

 多少湿り気があってもまとまりがよく軽い雪でもまだいい。

 だが重く湿ってガチガチに固まった雪、お前は駄目だ。許されない。本当にやめて?

 冬の雪国住人には安寧のときなどない。春が来るまで毎日毎晩明日は積もりませんようにと祈りを捧げる。

 誰に?

 空にだよ!

 雪なんてものはただの空からの廃棄物だ。放置すれば家は埋まり、つぶれ、外出すらままならなくなるし、綺麗にするために必要な手段はすべてにおいて金銭が発生する。かといって雪国手当てなんてものがあるわけではないので、すべて自費である。雪国控除とかあってもいいんじゃねえかな?

 そんなことを考えながら、今日も雪国住人はママさんダンプとじょんばとを装備して雪かきへと挑むのだ。

 午前五時の朝飯前に。

 

 

 

@ktgn_ds
意味はないけれど個人的に楽しかったり美味しかったり気になったことを書いたりしたいものです。